死んだ者の世界
投稿者:ぴ (414)
その日私は朝からおかしなこと続きでした。
まず朝起きたら、6年前にこの世を去ったおじいちゃんがリビングで新聞を読んでいたのです。
おじいちゃんはすごくきびきびした人でしたが、私に「大きくなったな」と穏やかにまったり声をかけてくれました。
私は何事もなかったかのようにおじいちゃんと世間話をし、庭に出たのですが、そこにいたのは十数年前におじいちゃんが可愛がって飼っていた犬の勇吉です。
私を見てすごく嬉しそうに尻尾をパタパタして駆け寄ってきました。首輪も何もつけられていなかったけど、ひとしきり私に甘えると小屋のところでのんびり寝そべりました。とても穏やかな顔をしていました。
勇吉と戯れていたら、ご近所さんに声をかけられました。顔を上げると見知った顔で、「あら、久しぶり〇〇ちゃん!」と声をかけてきたのは、子供のころ優しく接してくれた近所の駄菓子屋のおばあちゃんです。
この人もおじいちゃんが亡くなるより遥かに前にぽっくりこの世を去ったはずです。昔から優しそうでしたが、輪をかけて優しそうに目じりを緩ませてくれました。
それから会う人会う人、みんな死んだ人でした。
私はそれを理解しながらも、まったく慌てていないのも謎です。
その世界ではいろんな人といろんな話をしましたが、なんだかどの人もとても穏やかに過ごしているのです。
私がその世界で最後に最後に会ったのは近所の三毛猫でした。
この子はそこらの野良猫のボスみたいな存在でした。その猫が珍しく私の足元にすり寄ってきたのです。
いつも私が構ってもツンとして逃げていく猫でしたが、足元でずっとこっちにすりすり体をこすり付けて可愛かったです。
目が覚めたら、ベッドの中でした。私は変な夢を見たなと思ったのです。
死んだ人と久しぶりの再会をして、いろんな話をする夢でした。
起床時間はいつもより早かったので、私はなんとなく早めに家を出ました。そして道すがら人が集まっているのに遭遇しました。
通りがかると人の輪の中心にあのボス猫がいたのです。
近所のボス猫はその日息を引き取ったのでした。苦しむこともなく、ひっそり寿命を迎えたと聞きました。
あの夢はもしかしたらただの夢じゃなかったかもしれないと思っています。
あそこは死んだ者の世界でした。出会った人は人も動物も例外なく、「死んだ者」でした。すごく奇妙な体験をしましたが、私はいい体験をしたと思っています。
もう会えないはずのおじいちゃんや私の大事な人たちに出会えて、その機会にとても感謝しました。
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