前走車の後部座席
投稿者:すもも (10)
あれは何の変哲もないいつもの仕事帰りの体験です。
私は地方の田舎住みで、職場に通うにも自家用車を使い、毎日山道を通っていました。
都会とは違って街灯の一つ一つの間隔が何百メートルと離れていて、殆どが闇夜の森林に包まれたアスファルトが続くだけの道路です。
ただ、今宵は退勤後に暫く運転していると、ゲリラ豪雨なのか結構な雨量と大きな雨粒で前方のフロントガラスの視界が悪くなり、少し運転しづらいと思いました。
規則的なワイパーの動きを目で追いながら、私は黙々と緊張感をもってアクセルを踏む事に集中します。
すると、前方に尾灯が見えた事から前走車が居ると思い少しスピードを緩めました。
そうやって私は車間距離を保ちながら前走車に倣って進んでいくのです。
暫く進むとトンネルがあり、私は特に怪しむ事もなく前走車に真似て侵入するのですが、
(あれ?この道にトンネルなんてあったっけ?)
と、唐突な不安を抱きながらもトンネル内を見渡します。
等間隔に取り付けられた橙色のランプがあるものの、何れも寿命寸前といった酷く薄暗い照明ばかりで、トンネル内を走る私は余計に不安になってしまいました。
しかし、前走車がいる事でその不安も軽減できていて、とりあえずはトンネルを抜けてみようと思えたのです。
ですが、進めど進めど出口に辿り着かない事に違和感を覚えました。
トンネルは直進が続くだけなので前方に目を凝らせば自ずと出口が見える筈。
そう考えたのですが、どんなに凝視しても出口らしきものが全くと言っていいほど見えなかったのです。
(まあ、夜だし見えないもんかな?)
それでも、私は時間帯が遅いという事もあって、外が暗い為に出口の明かりも肉眼で分からないのだろうと納得しました。
そんな少々不思議な感覚の中トンネルを進んでいると、不意に前走車のリアガラスに動きがある事に気付いて、運転中にも関わらず気になって前走車のリアガラスを凝視しました。
ワイパーが雨粒を払い除ける景色越しに前方を見ると、前走車のリアガラスに人が寄り掛かっているのでしょうか、張り付くような体勢でそのシルエットが浮き出ているのです。
生憎とトンネル内の照明が薄暗い為、シルエットの細部までは分からないものの、時折そのシルエットの輪郭が肉眼でも捉える事が出来る様に証明の明かりが差して見えるのでした。
(なんか気持ち悪いなぁ)
そのシルエットは恐らく直進方向とは逆を向いている、つまり、後続車である私を見ている。
不思議とそう思えてならず、私は嫌な気分になりました。
しかしまあ、こう暗くては互いに顔を肉眼で捉える事なんてできないでしょうし、トンネルを抜ければもっと暗くなるので気にするだけ無駄骨だと悟り、構わずに運転を続けます。
バン!バン!バン!
すると、雨音に紛れて何やら洗濯物を叩く時の様なけたたましい音が聞こえてきました。
暫く続いたその音は何処から聞こえてくるのかと耳を澄ませるも、車体の至る所から聞こえる為、音源を辿る事はできません。
音の場所を特定しようと試みるも、気付けば前走車が停車している事に気が付き、思わず「キイイイイイイイイイイ」と急ブレーキを踏みました。
急ブレーキといってもスリップするほどでもなく、軽く身体がガクンと前に傾く程度でしたが。
私はすぐに顔を上げて「何を急に停車してるんだ、危ないだろう」という怒気を孕んだ面持ちで前方を睨みますが、すぐに後悔しました。
しっかり怖かった
想像したら怖い
誰かこの謎生き物のイラスト描いてくれないかな
面白かったです。中身が濃い作品。