マンション5階の恐怖

夏の暑い日に、わたしはベランダの窓を開けて網戸だけで寝ることがよくあった。
マンションだし、５階だし、盗られるようなものなんてないし、もし来るとしてもスパイダーマンじゃあるまいし。
その日も仕事終わりにくたくたで帰宅して、ごはん、お風呂、さあ寝るか、で網戸のままで眠りについた。
夜中起きることはそんなにないのに、その日はたまたま喉が渇いて目が覚めた。
まだ外は真っ暗で、ベランダから漏れる明かりで部屋は薄闇になっている。

お茶でも飲もう、と体を起こした。
ふ、とベランダのほうを見る。

ベランダの網戸の外側に人が立っていた。目が合う。
人、がいる・・・ここは自分の部屋のはず。

男の人。暗いけど、それはわかる。こちらを見ている。
その人は、わたしを見ていて、今目が合っている。
これは、お化けとかそういうものじゃ、ないーーーー。
生きている人間だ、と瞬時に悟り、ゾッと鳥肌が立った時、
相手が身をひるがえした。

ガタガタと逃げる音がする。

どうしようどうしようどうしよう。
お母さん。
すぐに動きたいのに動けない。

バタン、と隣の部屋のドアが閉まる音がして、
わたしはやっと泣き声で母に電話をかけた。

その後は警察がきて現場検証をし、
ベランダにあったエアコンの室外機に靴跡がはっきりついていることが分かった。

その靴跡は明らかに隣から入っていることを表していた。
隣人。一度もあっていない。
あの日、どうするつもりだったのか。
考えると怖くて一人では眠れなくなってしまった。

おばけなんかより、人のほうがよっぽど怖い。