幽霊の出る居酒屋

今はもう廃業してしまった、バイト先で体験した怖い話です。

そのバイト先は個人経営の居酒屋で、50代くらいの旦那さんと奥さん、そして20代～30代のバイト3名で回している小さなお店でした。

こじんまりとしていますが、味は良いし雰囲気も穏やかで居心地が良いということで、毎日お客さんが満員になるくらい地元では人気だったのです。

私は、先のその居酒屋で働いていた友人Aに「1人バイトを辞めるからかわりに入ってくれる人を探してるんだけど」と誘われて、後からバイトに入りました。

友人が「良い店で働きやすいよ」と太鼓判を押すだけあって、人間関係の悩みもなく、今まで入ったバイト先の中でも一番に働きやすくて、長く続けられたらいいなと思っていたのです。

しかし、1つだけ、そのバイト先で困ったことがありました。

バイトが、入ってもすぐ辞めていくんです。

友人曰く、「私が入って1ヶ月で4人も辞めた」とのこと。

だから「店長である旦那さんが実はパワハラするとか、副店長の奥さんが怖いとか？」「変なお客さんがいるのかな？」と、バイトに入った当初はびくびくしていました。

しかし、先述した通りバイト先の人間関係はとても良好で、和気あいあいとしています。

お客さんも常連客ばかりだし、悪い酔い方をする人もいません。

それならどうして…？と思っていましたが、私がバイトに入って2週間経ったあたりで、その原因が分かりました。

その日は、店長の旦那さん、副店長の奥さん、先輩バイトのBさん、入って2週間の私でお店を回していました。

私の仕事はレジ・接客なので、次々来るお客さんを捌いていた時、カランカランというドアチャイムの音とともに、お店の出入り口の引き戸がスーッと開いたのです。

私はドアチャイムの音が聞こえたので、誰かお客さんが来たのかと思って「いらっしゃいませー！」と言いながら出入り口に向かいました。

しかし、そこには誰もいません。

「あれ？おかしいな」と思って外の通りを見たのですが、誰も立っていないのです。

引き戸は手動なので、誰かいないとおかしいのに…いたずらかな？と思いながら、引き戸を閉めて業務に戻りました。

しかし、その夜は、ドアチャイムが鳴って引き戸がスーッと開けられるということが何度も何度も起きたのです。

3回目になって、さすがにこれはおかしいと思い、こそっとBさんに「これってどういうことですかね…？」と聞いたのですが、Bさんは「いつものことだから、あまりに気にしなくていいよ。今日はそういう日みたい」としか言わず、詳しいことは教えてくれません。

旦那さんも奥さんもBさんも、他のお客さんもドアチャイムが鳴って独りでに引き戸が開くと、チラッとそっちを見るのに、騒ぐことなくすぐ見なかったフリをするのです。

何なんだろうとモヤモヤしながら働き続けて閉店時間になり、閉店作業をしている最中に、奥さんが「実はね…」と事情を教えてくれました。

どうやらこの居酒屋の前は、別の小料理屋が入っていて、その時のお客さんが幽霊となって現れるのだそうです。

今の居酒屋になった当初は、引き戸を開けるだけではなく、姿が見えないのに店内を歩く足音が聞こえたり、別のお客さんに覆いかぶさるように店内に入って来る霊がいるなど、もっと心霊現象が酷かったようです。

何度かお祓いをして、やっと今のように引き戸を開けるだけまで収まったのだとか。

常連のお客さんは「こういうこともある」と分かってくれるので騒ぐことなく、受け入れてくれているのだそうです。

長く勤めているバイトも同じように受け入れているものの、新しく入るバイトの中には心霊現象を怖がる人が多く、だからバイトが入ってもすぐ辞めていってしまうと奥さんが嘆いていました。

私もちょっと怖かったのですが、「引き戸を勝手に開ける以外は害はないから辞めないでね」と奥さんに縋りつかれ、「辞めたいです」とは言えず、ずるずるとそのバイトを続けていました。

しかし、バイトを辞めようと決意するような恐ろしい出来事が起こってしまったのです。

私がその居酒屋でバイトして半年ほど経った頃、男女のお客さんが来店しました。