あれは世間を震撼させたニュースでした。
独身時代、親友の彼氏から友人を紹介されました。
紹介されたそのひとは他県からの医大生で、勉強と実習ばかりでこの辺りには知り合いが少ないからとのふれこみ。一度目は30分位だったでしょうか、四人で会い、次は二人だけでの待ち合わせでドライブ&食事でもという話になりました。
二回目に会ったとき、彼はまだ学生の身分なのに紺色のクラウンでやってきました。彼曰く、裕福な家庭育ちの学友の中でみじめな思いをしないよう、親が買ってくれたとのこと。聞きながら、そのときの私は後部座席に無造作に置かれた縄のことが気になっていました。
クラウンに縄?
医大生が何に使うために縄を?
ドライブデートなのに縄を載せっ放し?
緊張と違和感のせいで会話に集中できず、なんとなく上の空でいると山あいの展望台に到着。すると、彼は
「ここで置き去りにされるのと、俺とこの後セックスするのとどっちがいい?」
と言い出しました。
え?
ほぼ初対面で、ほとんど会話もしてない段階で何を言いだすの?
冗談にもほどがあると彼の顔を見ましたが、冷淡なその表情が彼の性格の傲慢さを物語っています。冗談などではないことを察知した私は、なんとかかんとか誤魔化し宥め透かし、早々にデートそのものを切り上げて帰宅することができましたが、生きた心地がしませんでした。
帰宅後、直ぐに親友に連絡し、今日のデートのこと、今後彼と会うつもりは一切無いことを伝えました。
その後、私は良縁に恵まれそれなりに明るく楽しい結婚生活を送っていますが、そんなある日、テレビがショッキングな事件を伝えていました。医師である夫が妻子を殺害し車ごと海に沈め…その男の顔が映し出されたとき、私は息を飲みました。そう、あの医大生だったのです。名前も一致。後日、その残忍な殺人犯の生きてきた経歴を追う番組の中で、あの紺色のクラウンと共に写真におさまる医大生当時の彼の姿も映し出されました。
その後も時々ふと考えてしまいます。もし、あのとき彼と付き合っていたら、一歩間違えば殺されたのは私だったのかも…後部座席の縄に抱いた違和感が蘇ってくるのです。
早めに正体表してくれて、本当に良かったね!
置き去りのほうがまだ安全かもしれないという環境でどうやって誤魔化して逃げたのか詳しく聞きたい
というか、サスペンスとすればそこがいちばん肝心なのでは
これ、もしかしてあの事件?
あの、母親とお子さん二人が海に沈められた。
酷い事件だったよ。あのマスコミの報道の仕方もね。
実は親友とその彼氏もグルだったのです。
ひょっとして俺、その男と同じ大学だったかも…。
置き去りにされず宥めることができたその手腕、教えてほしい!!
誤魔化し宥め透かし、じゃ納得できないなぁ