私の嫌な予感〜火災〜
投稿者:深幸〜みゆき〜深淵を覗く (6)
30年近く前の話です。
出産を間近に控えていた私は、主人と一緒に車で郊外のホームセンターへと買い物に行きました。大きなお腹を抱えている私を気遣って、主人はホームセンターの入り口に近い所に空きを見つけて駐車してくれました。
ところが、何故か私は入り口には向かわず、お店とは逆方向に歩き出してしまいました。そんな私に驚いた主人が背後から呼ぶ声が聞こえます。
「どうした?
何処行くの?」
そのときの私の感覚は、主人の声は聞こえているのに頭には入ってこず無心、といえば分かっていただけるでしょうか?何故か歩を進めてしまうのです、足が勝手に。でも、それを不思議とさえ思わない。
とうとう駐車場の出入り口と公道を区切るフェンスのところまで歩いてきてしまいました。店舗入り口とは真逆の位置まで来たところで、ピタリと立ち止まりました。その視線の先にあるのは、小さな一軒の自動車整備工場。小さな看板を掲げてありますが、この場所からだと、一見普通の住宅なようにも見えます。需要はあるようで、高圧洗浄機で洗車しているらしい音が聞こえています。
後ろから心配して追いかけてきてくれた主人が訝しげに
「どうした?
何見てるの?
買い物しないの?」
と訊ねます。当然です。私自身でさえ分かりません。それなのに
「なんかおかしい」
そんな言葉が勝手に口をついて出てしまいました。
「何が?
知ってる人の家?」
「分からない。
分からないけど、何かおかしいの、ここ」
「はぁ?
何が?
早く買い物して帰るよ、行くよ」
お昼ご飯がまだの主人は空腹も手伝ってか、私のトンチンカンな言動に苛立っています。そんなことはちゃんと解っているのに、何故かこの家が無性に気になるのです。でも、何が気になるのか、もしくは誰が気になるのか、一切分かりません。
ついに主人が私の手を取り買い物へと促されてしまったため、私もそこで諦め店舗入り口へと向かいました。
その数日後、地元放送局が火災のニュースを報じていました。そう、あの家が燃えている映像でした。
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