あの人またきてる……

竹内さんは心臓の不調を訴え外来に通っていた六十代の患者さんでした。
とても穏やかな人柄で、私たち看護師にも優しくしてくれたのを覚えています。しかし季節の節目に体調を崩され、あっけなく逝ってしまいました。

ところが……竹内さんが亡くなり数日後、ロビーを歩いている時に見慣れた後ろ姿が目にとまりました。

「白いパナマ帽と灰色のジャケット……まさか竹内さん！？」

白昼堂々幽霊がでるなんて、とびっくりしました。自分の目を疑って注意深く接近するも、次第に違和感が膨らんでいきます。竹内さんにしては小柄なのです。

「あの……失礼ですがお名前をお聞きしても？」
「竹内勝です」

面と向かって尋ねた所、生前の竹内さんとそっくり同じ格好をした謎の老人がハッキリ答えました。

亡者になりすますこの老人は誰なのか、パニックに陥りました。悪ふざけにしては度が過ぎます。

上に報告した所血相変えて医師が駆け付けて来て、竹内（仮）さんをどこかへ連れていきました。
去り際、医師が懸命に語りかける言葉を小耳に挟んでぞっとしました。

「用があるのはこっちじゃないでしょ」

竹内（仮）さんが連れていかれた先にあるのは精神科の受付でした。

後でわかった事ですが、彼は竹内さんと長年の友人で心の病を患っていたそうです。