鬼が住んでいる
投稿者:砂の唄 (11)
これは私があるデイサービスで働いていた時の話です。
利用者さんの一人に佐田さんという95歳のおばあちゃんがいました。佐田さんは元気で活動的な方だったのですが、認知症を患っていました。
認知症の症状の一つに作話というものがあります。簡単に言うと、記憶がない部分を補うために作り話をするのです。内容としては嘘なのですが病気の症状ですので、訂正や否定はせず私たちは話半分に聞き流します。そうするとそのうち話したことも忘れてしまいます。
佐田さんの場合は話の内容が正しいこと半分、作り話が半分といった具合でした。
ある時佐田さんが新聞を読んでいました。記事の一つに世界の不思議大集合というのがあり、私は佐田さんに質問をしました。
「佐田さんは今まで不思議なものを見たりしたことありますか?」
「そうだねぇ…」佐田さんは少し考えこみました
「あのね、私が小さいころ住んでた家には鬼が住んでいたの」
「あら、佐田さんのおうちにはそんなに怖い人がいたんですか?」
「違うの。本当の鬼よ」
私は少しきょとんとしてしまいましたが、佐田さんは話を続けます。
「家にはね大きい蔵があって鬼はそこに住んでいたの。父親が『あそこの蔵には鬼を閉じ込めている。外に出すと悪いことをするから閉じ込めているんだ。蔵から声や物音が聞こえても近づいてはいけないよ。鬼は何をするかわからないからね』私が3歳くらいの時からそうやって言い聞かされていたわ。蔵からは大きな音がしょっちゅう聞こえてきたから、一人で廊下を歩くとき怖くて仕方がなかったの。1回ね、5歳くらいの時、蔵から助けてって男の声が聞こえたから近づいてみたの。そしたら扉をガンガン叩き始めたから怖くなってすぐに戻ったわ」
私はなんと返したらよいかわからず、ただうなずいていました。もうすぐ昼食の時間となるで、「もうこんな時間ですね。お昼ごはんの時間ですよ」と話題を変えると「あら、もうそんな時間?今日はお魚だと嬉しいわ」と佐田さんは鬼の話をやめました。
私は病気のせいとはいえ変な話をするものたなと思っていましたが、時間がたつにつれてすっかり忘れてしまっていました。もちろん佐田さんはそれから鬼の話なんかしませんでした。
それから数か月くらいたったでしょうか。私は佐田さんとテレビを見ていました。
「あのお屋敷、私が小さいとき住んでいた家に似ているわね」
テレビの画面には古い日本のお屋敷が映っていました
「あの蔵なんて特にそう」
「気違いの一郎叔父さんがいた蔵にそっくりだわ」
話の構成も良くて話に引き込まれました!
佐田さんの家の蔵に住んでいたのは、鬼
ではなく、本当に叔父さんだったのか……
どこまでが真実なんでしょうか…。
でも、何故叔父さんが蔵の中に…
凄く読ませる文章で面白かったです!
座敷牢みたいなことでしょうか…
昔は普通にあったと言いますよね
怖いけど悲しいことなのかも…