カーナビに誘導されて見たもの

数年前の夏のことです。
そのとき私は出張の多い仕事をしていて、週に２〜３回は泊まりで地方に行っていました。
出先で名物を食べてみたり、観光地や温泉に寄ったり。今考えてもとても楽しい時期だったと思います。

ある日、前の仕事が押して、出発が少し遅くなりました。
地図アプリで調べたら到着予定が23時近くで、泊まる予定のホテルのチェックインの最終時間ギリギリでした。
それで少し焦ったこと、そして長距離運転に慣れてきた油断から、事前にルートをちゃんと確認せずナビを頼りに出発してしまったんです。

途中までは車通りの多い国道を走ったのですが、途中から急に、明らかに車通りの少ない狭い道へと入っていきました。
なんだか嫌だなと思ったのですが、時間はギリギリ。もう引き返して他のルートを通るという選択肢もなく、そのまま進みました。

そのうち山に入りました。
もう対向車も、後ろから追ってくる車もいません。
街灯もほとんどなく、ギリギリすれ違えないくらいの細い山道で一人きり。
それでもしょうがなく走っていくうちにとうとう街灯もなくなり、自分の車のライトだけが頼りです。
道に木が張り出していて、車にぶつかり、その拍子にコウモリが飛び交いました。

そのときです。
明らかに空気が変わりました。
後頭部の髪の毛がチリチリするような感覚があり、絶対振り向けないし、ミラーも見てはいけないと思いました。

くねくね道で大してスピードも出せない中なんとか平常心を保って山を降り、街灯が見えて、対向車が見えて…

ホッとなんてしなければよかった。
あのときバックミラーに映っていたのは、後部座席にいたのは、確かに人っぽい形の影でした。
気付いていることに気付かれたらおしまいだ、なぜかそう思って、とにかく安全運転で、バックミラーは見ずサイドミラーだけ見て、運転しました。

その後、無事ホテルに着いて、無事仕事をして帰って。
何か悪いことが起こったり怪我をしたりはしていません。
でもきっと、山道であの影を見つけてしまっていたら、無事には帰れなかったのかもなって。
なんとなく、今でも思います。