夜に山から聞こえる赤ん坊の泣き声の正体は・・・
投稿者:Rebirth (2)
もう、一人は無理だと言ってしまおうかと毎日思うようになりました。
きっと、以前部屋を借りた学生たちも、こんな不安で出て行ってしまったのだと思いました。
ただ弟に舐められたくない一心で持ち堪えていたのです。
「どう、一人暮らしはいい気分?」
母に聞かれた時にも、頷くだけで、言えませんでした。
三か月を過ぎた夜、よりはっきりと泣き声が聞こえてきました。
部屋の隅の暗がりに、女の一人が立っています。気のせいなんかじゃない。目の隅に、着物の裾が見えているのです。
赤ん坊の泣き声は、山ではなく、部屋の中で聞こえています。
もう限界、明日の朝になったら、母に言ってまた弟と同じ部屋にして貰うことに決めました。
なんとか、ベッドまで後退りして、潜りこみ布団を被りました。
情けないけど敗北です。
長い夜が明けて、母屋に走りました。
朝食を食べながら、部屋はいらない、今日から母屋に戻るとやっと言うことが出来ました。
私の話を聞き、父が重い口を開きました。
「あの裏山は、稚児落としと言う呼び名がある。戦国時代に、武田勝頼が、あの山道を通り、敵から逃れたのだ、俺も子供の頃何回も泣き声を聞いたことがある」と、言うのです。
「部屋に女の人が立っている」と言うと、父はさらに
「それは、逃げる途中で、連れていた一行の赤子が泣くので、裏山の谷に投げ落として難を逃れたんだ、その乳母だろう」と、あたり前のように言うのです。
私は、もう怖くてだらないから、戻りたいと、やっと言うことが出来ました。
たいして怖い話じゃなくて、すみません。
その後ですが、2年後に弟が部屋が欲しいと、あの部屋に移りました。
弟は、何も怖くないし、何も起こらないと平然と暮らしています。
「あいつは図々しいなあ、まあ、よかった。昔の幽霊じゃ、お祓いするのも難儀だろうし、あいつが平気なら、しばらく住んでもらえば、また人に貸せるようになるだろう。あのな、倉庫にも出るんだよ」
父親は、夜倉庫で作業をしているときに、度々その女を見ると言う。知っていたのだ。
「おまえは姉の癖に情けない」と言われたけど、とてもあんな部屋には住めない。弟は鈍いんだ。結局私は三か月で敗北しました。後日談があります。
弟にも見えていたし、聞こえていたのだと一年位してから分かりました。
弟は金縛りにあったり、不眠症になり、病院に通うようになるまで、痩せ我慢をしていたのです。
何回も聞いてあげたのに「俺は幽霊なんか信じてないよ」とか、「戦国時代って昔の話だろ」とか、平静を装っていたのです。無理はしないことです。
今では、人に貸すことは諦めたようで、父親が事務所として使っています。
もちろん夜泊まることはないので、それほど気にしていないか、あんな恐怖感はないのだと思います。母親は近づくことさえしません。
「取り壊すしかないんじゃないの」と、父親に言ってはいますが、「いいよ、俺が使うから」と言っています。
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