地獄の音
投稿者:Dandelion (1)
バンドメンバーは少し悔しそうな顔をしていましたが、あと1日で終わらせなければまた追加の料金が発生してしまうということもあってか、渋々了承してくれました。
メンバーを見送り、私の徹夜作業が始まります。
3時間くらいで終わらせられれば5時間くらいは眠れるかな、なんてことを考えながらタバコに火をつけ、ボーカルの声を修正し始めました。
作業は思っていたよりもスムーズに進み、ちょうど曲の半分ほどまで修正が終わったあたりのタイミングで、休憩がてら少しスタジオ内を片付けることにしました。
ブース内のケーブル類を片付け、掃除機をかけていた時です。
掃除機の騒音に紛れて、女性の悲鳴のような声が聞こえたような気がしました。
すぐに掃除機を止める私。外部の音が一切入ってこないスタジオ内は耳が痛くなるほどの静けさに包まれています。
しばらく静かに待ってみましたが女の声は聞こえません。やはり気のせいか、働きすぎかな…。そう思いブースからミキシングルームに戻ろうとした時、突然、今日レコーディングした曲が大きな音で流れ始めました。
「バグった!」そう思いました。ヘッドホンからしか音が流れない状態になっているにも関わらず、メインの大きなスピーカーから爆音が流れています。
レコーディングした音のデータは全てHDDに保存されています。都度データは保存しながら作業はしていますが、万が一データが消えてしまったりしては最悪の事態です。
慌ててPCに向かい、停止ボタンを押しました。
・・・・曲は止まりません。
今日何度も何度も繰り返し聞いた大学生たちの曲が鳴り続けます。
停止ボタンを連打しますが、曲は止まりません。むしろPCが一切の操作を受け付けなくなりました。電源を切ることも一瞬考えましたが、データが消えるリスクを考えるとさすがにできませんでした。
そうこうしていると曲にノイズが入ってきてしまいました。
爽やかな曲に混ざって、「ジジ…ジジジジジジ」という古いラジオのような音や「バンッ、ガシャン」といった金属を打ち付けるような音が聞こえます。
いよいよ本格的にぶっ壊れたかもしれない。全てを諦めて電源を落としてしまおうかと考え始めたときでした。
曲もそれまでのノイズもかき消すかのような大音量で
「ギャアアアアアアアアアアアアアア」という女の悲鳴が響き渡りました。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア」
「ギャアアアアアアアアアアアアアア」
凍りつく私を何度も何度も女の悲鳴が襲います。スピーカーがバリバリと割れそうな音を出しています。
そして次はそ女の悲鳴の奥から、子供の声で、「ウワアアアアアアアアアアアン」というような本気の泣き声が聞こえてきました。
その次は大人数の大人の男の声で「ウオオオオオオオオオ」という地鳴りのような叫び声も聞こえます。
私は立ち尽くしながら、何かとてつもない惨事から逃げ惑っている人達の姿を想像しました。今になって思えば地獄にマイクを立てたらこんな音が録れそうな気がします。
どれくらい経ったでしょうか。恐らく2分も経っていないと思いますが、徐々に断末魔のような声が小さくなっていき、元の大学生の爽やかな曲に戻っていきました。今度は停止ボタンで普通に曲が止まりました。
呆然としながらも私はデータの保存ボタンだけ押して、とりあえずスタジオを出て事務所の休憩室で休むことにしました。
休憩室には同じく泊まりで作業をしていた先輩エンジニアがいました。
先輩は私の顔を見るなり、「データでも飛んだか?」と言いました。私は相当真っ青な顔をしていたようです。
私は先輩に先程あった断末魔のような声のことを話しました。
スタジオとかライブハウスは出やすいって聞いたことがあります
なんでだろ
リアリティがあっていいですね
自分もレコーディングエンジニアしてた時にここまでではありませんが作業中に視界の隅からずっと何かが覗いてくるスタジオがありました。その方へ視線を向けると何もないんですが作業を始めるとまた何かに覗かれてるんです。それ以上は何もありませんでしたが何とも気味の悪い体験でした
怖いな。
そんな場所で働ける人達は凄い!!
自分にそんなことが起こったらと考えたら、怖いよりも面白くなってしまいました。
俺もウィンターでそこが心霊スポットって聞いた時はびっくりした