お堂の軒下にいるものは・・・
投稿者:gin (2)
これは私が大学生のころにした怖い体験です。
当時の私は有り余る時間と体力に任せて、夏休み期間中に寝袋を相棒に、あえて計画を立てない一人旅を敢行しておりました。
目的地は決めているものの、ルートや宿は決めず、気に入った景色や施設があればいつまでもその場で時間をつぶし、公園やバス停のベンチで眠るような無鉄砲な旅でした。
そんな無計画さでしたから、ある時山道で迷ってしまいそのまま暗くなってしまったことがありました。
山道のことで標識も街灯もありません。その上天気も悪くなってきました。
引き返したほうが良いのか進み続けたほうが良いのかすらわからず、とりあえず道なりに進んでいくと少し先に街灯の明かりが見えました。
なにか現在地がわかるものでもあるかもしれない。そう思いその明かりまで進んで行くと、街灯と思ったのはお堂に取り付けられた古びた電球だったのです。
山道には時折、こんなお堂が古びたお墓とともに建っていることがあります。昔の集落の名残なのでしょう。このお堂もそういった様相でした。
このお堂には横になれそうな縁側と、雨が降ってもしのげそうな軒がありました。
少し雰囲気は怖いけれど別に大丈夫。明るくなるまでここで寝て朝になったらまた進もう、そう思いその夜はそのお堂の軒下で眠ることにしました。
疲れもあり、すぐにうとうととし始めたのですが、『ざっざっざっ』とお堂の周りを歩く音がするのです。あれっと思って目を開けても何もありません。
しかし、また眠りそうになると『ざっざっざっ』。音がするのです。
怖いけれど、移動して行く当てもない。むしろ夜道を歩くほうが危険だろう。腹をくくりました。
幽霊でもいるのかもしれないが、ごめんなさい。僕は何もしていない通りすがりです。一晩寝かせてください。そう声に出してみて後は無理矢理横になりました。
その後も音がしていたような気がしますが、図太い性格が幸いして朝まで眠ることができました。
野宿の朝は早いです。太陽が昇ると起こされます。朝が来たなと寝ぼけた頭で考えていると下の階の子供が騒ぐ声が聞こえます。
元気だな、夏休みだもんな、と考えてハッとしました。
昨日はお堂に泊まっただろう、下の階なんてあるはずない。
一瞬で怖くなり目が覚めて飛び起きました。子供の声なんて聞こえません。
泊めてくれてありがとうございました、そう声に出していってみて出発の準備をしました。
怖い体験をしたが害はなかった。まあ、真相は疲れと寝ぼけが原因だろう。そんなことを思いながら出発前に声の聞こえた軒下をひょいっと覗いてみました。
お地蔵さんの首だけが何個も何個も並べられていました。
その首は綺麗に人の手で切り取られたことがわかる切断面でした。古いものではありません。
その切断面は覗いた私の正面、お地蔵さんの顔は上を向いていました。つまり私は無数のお地蔵さんの生首が見つめる先に一晩横になっていたのです。
手を合わせるか一瞬悩み、一刻も早くその場所から離れることにしました。
その後、私の身に特に変わったこともなく、あの怖い体験は一晩だけのものでした。お堂のことを調べてみてもなにもわかりません。しかし、グーグルマップで見てみると、あのお堂は間違いなく今も現実にその場所に存在しています。
こういう”しんみりじんわり怖い”不可思議な話も良いですね