ずるずる
投稿者:藤野 (11)
ああ、すみません。私ちょっと花粉症で……。うるさかったですか? あはは、それならいいんですけど。
……実話怪談を知りたいって聞きましたけど。ええ、長くなりますけど、話しますよ。
これ、私の親戚の話なんですけどね……。その人をCさんとしましょう。
Cさんは、昆虫が大好きでした。私は昔っから虫が嫌いで、だからCさんの話もあんまり真面目に聞いてなかったんです。名前が思い出せないんですけど、細長い寄生虫。その話をされたことだけは、覚えています……。
確かそいつはカマキリに寄生して、脳を操って、水に入らせてしまうらしいんです。恐ろしいですよね。
それで幼い私も、話に引き込まれたんでしょう。
Cさんは他の寄生虫の話もしていました。
それはカタツムリに寄生するらしいんです。カタツムリの中を蛍光色で派手に動いて、カタツムリを芋虫に似せるらしいんですよ。そしたら、それを芋虫だと勘違いした鳥がカタツムリを食べる。鳥もお馬鹿さんですよねぇ。芋虫とカタツムリじゃ全然違うじゃないですか。カタツムリにはあの特徴的な、螺旋状の殻があるのに。
カタツムリに寄生していた寄生虫は、鳥の腸管に移って卵を産みます。寄生虫の卵は鳥の糞と一緒に排出され、これを食べたカタツムリがまた寄生されるという……。
これが無限に続くんです。まさに負のスパイラル。しかもですよ? それに寄生されたカタツムリは、鳥に見つかりやすいように操られるんです。普通カタツムリは葉っぱの裏とか、天敵に見つかりにくい所にひっそりと身を潜めていると言うのに……。
私はこの話がとっても恐ろしかったんです。体に侵入されて、脳を操られるなんて……。きっとカマキリもカタツムリも、自分が寄生されているなんて気づいていませんよ。普通に生活しているつもりが、実は自分の体内に隠れている寄生虫に有利になるようにさせられているなんて。
知ってます? 一時、その寄生中が人間にも寄生するってデマが流行ったのを。確かそのデマは、カマキリに寄生する方のだったと思うんですけどね。結局専門家が「人間には寄生できない」と言って、徐々にその話は忘れられていきました。
……でも私、そうでもないと思うんですよね。おかしいことを言ってるのは分かってますよ。前置きが長くなってしまいましたね。Cさんのことです……。
その話を私にしてくれた後からでしょうか。Cさんは頻繁に廃墟に通うようになりました。Cさんが私に、毎回廃墟に行ったことと道のりを教えてくるんです。最初は、Cさんの好きな虫がそこにいるのかな、とか思ったんですけどね。どうも違うようで……。
私達の住んでいた場所は、そこそこ田舎でしたから、虫なんて沢山いた訳ですよ。どこに行っても虫を見つけて帰ってくるCさんが、その廃墟に行った時だけ虫の話をしないんです。不自然でした。
そしてもう一つ、不自然な事がありました。
Cさんが私と話す時、微かに変な音がするんです。
ずるずる……って。
私はCさんが鼻を啜っているとばかり思っていました。でもある時、違うと分かったんです。Cさんは普通に、にこにこしながら私に向かって喋っているんですよ。それなのに音が聞こえました。
ずるずる……。
その時ばかりは、恐怖を感じましたよ。Cさんから寄生虫の話を聞いてすぐでしたからね。幼い私は、Cさんが何かに寄生されて、その寄生虫によって廃墟に引き寄せられていると……、そう考えました。
Cさんを助けようと思って、私はCさんが廃墟に行く所を着いて行きました。Cさんから道のりは何度も聞いていたので、見つからないくらいに離れて歩くのも簡単でしたよ。
そしてついに廃墟に着きました。廃墟は、小さな一軒家のようでした。色褪せて、ツタに巻きつかれて、いかにも何かがいそうな……。Cさんは躊躇うこともなくその中に入りましたよ。そして、数分してから出てきました。
そんなことしかしていないのか……。そう思って、それ以来私はCさんを尾行するのはやめました。ほんの数分くらいなら、危なくないだろうと思って。
Cさんは、ある日行方不明になりました。
私が真っ先に思い浮かべたのは、あの廃墟ですよ。
警察が探している時に、私はこっそりあの廃墟に行きました。
そしたら、なんとその一軒家が二階建てになっていました。
カマキリに寄生する奴も、水まで誘導するらしいですね
きっと寄生された時点でずるずると廃墟に導かれるのでしょう
不気味で怖いお話でした