部屋の空気が一瞬で冷える。
「男だろ。一人で寝ろ」
「でも怖い……」
「母さんに甘えるな。一人で寝れるだろ」
弟は助けを求めるように母を見た。母は困ったように父を見る。
「こんな日くらいいいじゃない」
「良くない」
父は珍しく言い切った。
結局、その日は弟だけ部屋を追い出された。
私は追い出されなかったが、気まずくなって弟のあとを追うことにした。
扉を閉める直前、視界の端に父の表情が映った。
父は、私たちを見送る母だけを見つめていた。まるで、母が弟について行かないよう監視しているかのようだった。
それから父は、弟と母が二人きりになるのを嫌がるようになった。
学校行事。病院。習い事。
以前なら母任せだった父が、必ず付いて来る。
ある休日。私はリビングでテレビを見ていた。洗面所は隣にあり、母、弟の声が聞こえていた。
母が弟の髪を乾かしていた。
「ほら、面倒くさがらないでしっかり乾かさないと」
「はーい」
母の笑い声に、弟の楽しそうな声が重なる。
その時、同じくリビングにいた父が、洗面所へ入って行った。
「自分でやらせろ」
「たまにはいいじゃない」
「甘やかしすぎだ」
母も少し腹を立ているようだった。
「いつもは自分でやってるのよ。ちょっとやってあげるくらい甘やかす内に入らないでしょ」
父は何か言い返そうとして、結局何も言わなかった。
そして、拳を強く握り締めたまま、黙って部屋を出て行った。
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