「そんなわけないだろ」
だが、A子は首を横に振った。
「山を下りてる時……」
「うん」
「あの男の子が……」
「……」
「ボンネットを這ってた」
俺は何も言えなかった。
「それで……前輪に手を突っ込んでた」
その言葉を聞いた瞬間。
俺の脳裏に、あのブレーキが浮かんだ。
突然消えた制動力。
焼けたような、あの臭い。
A子が続ける。
「それから……俺君の声が聞こえた」
「何て?」
A子は俺を見つめた。
「『この車にはスコップが積んであるから大丈夫』って」
「俺君の声が一番怖かった」
俺は苦笑しながら答えた。
「スコップなんて積んでないよ」
その瞬間。
A子は何も言わなくなった。
ただ、涙を一筋流した。
そして――
じっと俺を見つめていた。
その目には、恐怖はなかった。
それ以上に、
理解できないものを理解してしまった人間の目があった。
俺は何も言えなかった。
この話は怖かったですか?
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