二人は奥へ戻る。
私は交番で一人になった。
本当は、不安だったから誰かそばにいてほしかった。
でも、黙って待つしかなかった。
若い警察官は何度か心配そうに様子を見に来てくれた。
どれくらい時間が経っただろう。
突然、自転車が急ブレーキを掛ける音が聞こえた。
ガチャン、とスタンドを立てる音。
勢いよく扉が開く。
一人の女性が飛び込んできた。
最初に思ったのは、
「……誰?」
だった。
女性は泣きそうな顔で私の名前を何度も呼び、強く抱きしめてきた。
その瞬間。
「ああ、お母さんだ。」
何故だか、そう思い出した。
母は何度も何度も警察官へ頭を下げていた。
その次に残っている記憶は、自転車の後ろに乗り、眠気と安心感の中で母にもたれ掛かっていたことです。
これが私の最初で最後の迷子の出来事です。
この出来事以降の記憶は、今でも比較的はっきり残っています。
しかし、小さい頃の私は、周囲から「常識が分かっていない」と思われることが多かったようです。
例えば、
家族構成を理解していない。
文字を右から左へ読んでしまう。
「日本」という国そのものを理解していない。
新字体が読めない。
今振り返っても、それが何だったのかは分かりません。
迷子になっただけだったのか。
あるいは、あの日、私の身に何か別のことが起きていたのか。
答えは、今でも分かりません。
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