駅の外に出ると、強い日差しが容赦なく松岡を襲う。
少し動くだけでじんわりとワイシャツが汗で滲む。
駅前の風景は随分と変わってしまったが、時折吹く潮の香りが混じった風だけは変わらなかった。
ーーー今日も暑くなるな。
松岡は息を大きく吸い込み吐き出すとと、迎えの車に乗り込み、早速尾久根山へと向かった。
尾久根山の入り口へ車を停めると、“KEEP OUT”が張り巡らされており、仏頂面の警官が数人で物々しく歩き回っている。
こちらです、と案内された方へ歩を進めると、懐かしい光景が眼前に現れた。
尾久根事件の現場となった工場地である。
取り壊されることも無く、寂れ不気味な様子でそこに建っていた。
木々に囲まれたそれは、何故だか不自然な程静寂を保っていて、異様な雰囲気を感じ取れる。
鼓動の高鳴りを実感していると、前方から背の高い痩せた男が近づいてきた。
「松岡刑事ですか。暑い中遠方遥々、ご苦労様です。県警の宮崎です。お待ちしていました。」
宮崎と名乗る男は名刺を差し出すと、短く刈り上げた頭を掻きながら、廃工場を指差した。
「丁度、松岡刑事が立たれている場所が現場です。マル害は工場の中には入っていないようで、ここで何かしらの理由で倒れたらしい。いやいや、参りましたわ。これで12人目の被害でして。」
「何かしら、とは?」
「それがよう分からんのですわ。場所が場所ですしマル害の症状も、例のーーーほら、尾久根病に酷似していたんでね。毒物が残留していないか、念の為鑑識さんも呼んで調べてもらったんですがね、さっぱりですわ。」
宮崎はそう言うと、大袈裟に肩を竦める。
「尾久根病は、産業廃棄物から発生した毒物が体内に蓄積されて発病しますから、例えこの場所に残留物があったとしても、昨日今日来た人間がいきなりそれにかかるとは考えづらいですね。直接、多量の毒物を体内摂取したなら別ですが。」
辺りを大きく見回しながら、松岡は言葉を続ける。
「何か不審な物は?」
「工場内も確認しましたがね、スケルトン状態ですわ。」
うーん、と松岡は唸ると、足元に1匹の蝉の死骸があるのに気づいた。
松岡はなんとなしに蝉の死骸を拾い上げ木々を見渡すと、あちこちに蝉や昆虫の死骸が転がっている事気づいた。
「虫が随分死んでいますね。」
「ただの虫の死骸ですよ。こっちも調査済みですが何も検出されなかったようです。」
様々な可能性を考え巡らせながら、暫く辺りを確認したが、それらしいものは何も発見できなかった。




























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