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スマートフォンの着信が、けたたましく鳴り響く。
松岡隆也は重い瞼を開け、時計に目をやると、針は14:35を指していた。
こめかみはチクチクと痛み、思わず目頭を抑える。
連日困難な捜査が立て続き、慢性的な寝不足は否めなかった。
大きく溜息をつき、鳴り続けるスマートフォンを恨めしそうに睨みつけると、一呼吸おいて電話を取った。
「松岡ですが。」
「金山だ。あぁ、松岡君、夜勤明けにすまないね。実は至急対応してほしいヤマがあってな。」
「いえ、仮眠を取っていただけですから。詳細は?」
「マル害は高校生の男女3名。内、2名は軽症だが1名は意識不明の重体だ。目撃者はいないが、意識のあるマル害は、何やら奇妙な事を供述しているらしい。まぁ、軽症とは言えせん妄状態らしく、要領を得た聴取は今の所できていないようだ。」
「傷害ですか?」
「いや、目立った外傷もなくてな。今日未明、マル害が自分の携帯電話から110番してきたらしい。心霊スポットで肝試しをしていたら、友人が卒倒した、と。現段階のみでは何者かによる傷害事件の線は薄いんだ。
ーーーただ、何というか、事件現場と、マル害の状態が問題でな。」
何です?という松岡の問いに、金山は躊躇う様に言葉を続けた。
「単刀直入に言う。君に、尾久根に行ってもらいたい。ーーーあの、尾久根事件の現場だ。尾久根山だ。」
松岡は、金山の言葉を理解できず一瞬たじろいだ。
「あぁ、部長、それはーーー」
松岡の言葉を遮るように金山は言葉を続ける。
「君の立場もよく分かっている。あの事件の時、君がどれだけ骨を折ったのかも、理解しているつもりだ。だが、そうも言っていられない状況でな。マル害の主な症状として、言語障害と手足の痺れが見られるそうだ。理由は今のところ不明だがーーー」
「尾久根事件と、そっくりだ。」
次の言葉を待たず、松岡は思わずそう呟く。
そして、金山の様子を伺うように意を決して口を開いた。
「尾久根事件は、まだ終わっていないという事ですか?」
「その可能性が高い。事件現場とマル害の症状、現状の状況だけ見ると、充分疑う余地はある。それも、今回だけじゃない。6月から既に9名の被害が出ているようなんだ。いずれも同様の状況だ。」
松岡は頭をガン、と殴られた気分に襲われた。
必死に冷静を取り繕いながら、恐る恐る尋ねる。
「しかし部長、何故私に?確かに当時、私が尾久根事件を担当しましたが、もう10年も前の事です。それに今は私は東京ですし、あっちは管轄外でしょう。県警からしたら警視庁の介入は嫌がりますよ。」
「県警からの正式な依頼なんだ。というより、もっと上からだ。既に連携を取っていてな。マスコミ連中に騒がれる前に捜査解決して欲しい。ーーーそれに、あれだけ大規模な公害事件を扱ったノウハウもある。君には辛い仕事になるかも知れんが、頼むよ。」
ーーーあぁ、それと、と金山は言葉を付け加えた。
「尾久根事件の続きではない事を祈っているよ。」




























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