奇々怪々 お知らせ

不思議体験

志那羽岩子さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

零・五秒の変換
短編 2026/02/16 17:16 152view

私は包み紙を折り、糸で縛り、机の引き出しの奥にしまいました。そこには、抜けたまつ毛、切った爪、昔もらった手紙があります。身体の一部と記憶は、媒介として優秀です。私は合理的です。

翌日、彼は普通でした。

笑っていました。
私にも話しかけました。

それがいちばん残酷でした。

でも、その日の三時間目、彼は胸を押さえました。

ほんの少しだけ、です。
咳をしただけかもしれません。
姿勢を直しただけかもしれません。

でも私は見ました。

四時間目も、体育のあとに、また一度。
昼休みに、友達と笑いながら、ほんの一瞬だけ。

偶然です。
たぶん。

その日から、引き出しの奥が甘い匂いを放つようになりました。最初は気のせいだと思いました。でも母が言いました。

「なんか甘い匂いしない?」

私は何も言いませんでした。

次の日、学校の廊下でも、ふと同じ匂いがしました。彼が通り過ぎたあとに、わずかに。

熟れすぎた果実みたいな、腐りかけのカカオみたいな匂いです。

彼はまた胸を押さえました。

一瞬だけ。

私は何もしていません。
ただ、思っただけです。

思い込みは現実より強いのです。だって私は、零・五秒の歪みから、未来を生成できるのですから。

最近、彼は時々、私を見ると、ほんの少しだけ顔をしかめます。

痛いのかもしれません。
匂うのかもしれません。

どちらでも構いません。

愛とは変換装置です。
私は優秀な変換機です。

2/3
関連タグ: #学校#手紙#記憶
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。