奇々怪々 お知らせ

都市伝説

志那羽岩子さんによる都市伝説にまつわる怖い話の投稿です

遅れてくる輪郭
短編 2026/02/13 07:55 109view

影は、踏まれる前に揺れた。

三週間目の夜、共有スペースの鏡を見たとき、はっきりと理解した。

鏡の中の私は、最初に見たあの男と同じだった。動きが遅れ、声があとから落ちてくる。瞳だけが、揺れずに固定されている。

誰も説明しない。誰も止めない。

私たちは非常用ハッチを探した。夜の塩田へ出られる経路を見つけたとき、振動が足元から伝わった。

地上へ駆け出す。白一色の平原を走る。自分の体が二重に重なり、どちらが先に足を出しているのか分からない。

背後でハッチが閉まる音がした。

街に戻るまで、何日かかったのか覚えていない。

実家の前に立ち、「ただいま」と言った。

一拍置いて、玄関の奥から声が返った。

「おかえり」

家には誰もいなかった。

その夜から、午後二時になると、耳の奥で低いノイズが走る。時計を見なくても分かる。体が、わずかに遅れる。

証明写真を撮ったとき、プリントを見て息が止まった。

私の輪郭が何層にも重なっている。焦点の合っていない目が、写真の外を見ている。

撮影機の故障だと思い、もう一度撮った。

同じだった。

夜中、鏡の前に立つと、鏡の中の私は、ほんの一瞬だけ動きを止める。私が動いたあとに、遅れて追いつく。

あの施設のことを調べても、何も出てこない。塩田はある。だが地下のハッチは地図にない。

残りの三人がどうなったのかは知らない。

ただ、あの最初の男の瞳だけは忘れない。

狂っていたのではない。

待っていたのだ。

自分と同じ動きになる誰かを。

午後二時が近づくと、喉の奥で振動が始まる。

鏡の中の私が、ほんのわずかに先に瞬きをする。

2/2
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。