向日葵は、被写体の母ではなくカメラ目線で正面から写っていました。
良かった、母は大丈夫だ。
そのまま他の写真も漁っていくと、敏感になった私のアンテナはすぐに異常を捉えました。
昨年ガーデンで撮った写真の向日葵。
そのどれもが、太陽の位置に関係なく、
カメラに対して花の正面を向けていました。
それは恐らく、私が最も見てはいけなかったもの。
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一度蓋が開くと、隙間を埋めるようにそれは生活に侵食しなだれ込んできました。
おすすめの動画のサムネイルに。
ネットニュースの挿絵に。
真隣で学食を食べている生徒のカバンのキーホルダーに。
新宿駅前のホログラム猫ちゃんの映像に。高速道路の傍らに。バイト先の傘立ての中に。コンビニの揚げ物棚に。生配信のコメント欄の名前に。芽吹く梅の小枝の先に。教授の腕時計に。母の右足首の内側に。2時の目覚ましのアラーム音に。剥いたミカンの果肉の中に。課題の途中式に。自身の吐瀉物の中に。非常口を示すピクトグラムに。
至る所でこちら側を向く向日葵が現れました。
まるで見ているぞと言っているようでした。
結局、実験的に自ら画像検索をかけたものや小学生の時使っていた教科書も含め、目に映った全ての向日葵が同じ正面を自分に向けていました。
中心の種の集合がだんだん人の黒目に似てると邪推したあたりで私は調べるのを止めました。
それ以来、私は自分の部屋から出るのが怖くなりました。
大学も何日も休み、母が心配して毎日必ず部屋の外から声をかけてくれました。
「無理しなくていいからね。」「選ばれたなら全うしなくちゃね」「学校には連絡を入れておいたから。」「ちゃんと食べないと体壊すわよ。」
友達からも何件も連絡が来ています。
あまりにもしつこく電話を掛けてくるので、我慢出来ず一度出てみましたが、
「体調大丈夫?」の二言目には
「次はもう決めた?あんまり時間残されてないよ」と抽象的な煽りを入れてきました。
私もストレスのせいで平常ではいられず、
「なんなの!!言いたいことがあるならはっきり言ってよ!!!」
と怒鳴ると、友達から電話を一方的に切られてしまいました。
読み仮名の難しい見知らぬアカウントから向日葵の絵文字が通知OFFを貫通してLINEが飛んできます。
結局、誰の言葉も全て無視して何日も何も飲まず食わず、トイレにもお風呂にも行っていません。
本当はちゃんと大丈夫だと返事をして伝えたいし、扉の前に置かれる母の愛情を少しでも口に運んで感想と感謝を伝えたいのですが、それがどうしても出来ません。



























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