うちの学校では、不審者が侵入した際、相手に悟られないよう「隠語」で放送する決まりがありました。
「ノートが届いた」は不審者の侵入。
そして、特にこのアナウンスは例の迷信が起こっていることを指す、最悪の警告でした。
廊下から、ズザーズザーという音が近づいてきます。
長い腕の先が、床を引きずっているような音。
「おーい、おーい、サキだぞー、あけろー」
ガラリ、と教室のドアが開きました。
そこにいたのはサキでした。
でも、サキではありませんでした。
顔はサキなのに、首から下が異常に長く、左右の腕は膝の下まで垂れ下がっている。
彼女は私を見ると、あの時の男と同じように、両腕をブンブンと激しく振り回しながら言いました。
「おーい、おーい、いいいろだぞー、いっしょにいこうー」
その瞬間、私の頭は真っ白になり、気づいた時には教室を飛び出していました。背後で先生やクラスメイトがどうなったのか、今でも分かりません。ただ、あの「ズザーズザー」という引きずる音が、廊下の角を曲がるまでずっと追いかけてきたことだけは覚えています。
結局、私はそのまま一度も学校に戻ることなく、逃げるように家へ帰り、退学届は親に郵送してもらいました。警察も動きましたが、サキも、そしてあの日学校を襲った「不審者」の正体も、何一つ手がかりは見つからなかったそうです。
私はそれ以来、その学校を辞め、実家に引きこもるようになりました。
今は平穏な日々を過ごしている……はずでした。
つい先ほどのことです。
リビングのテレビが急に起動し、私が通っていた学校が写り、あのチャイムが鳴り響きました。
『♪ ピーンポーンパーンポーン』
『玄関の前に、忘れ物がありました。〇〇さん、至急確認してください』
ふと見ると、閉め切ったはずのカーテンの隙間から、
異常に長い、赤紫色の指がスルスルと入り込んできています。
そして、耳元で。
「おーい、おーい、みつけたぞー」
あの、抑揚のない声がしています。



























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