「Sさんいますか?」
「いますよね。」
「いるんでしょ。」
例の配信者たちの声によく似ていましたが、私のスマートフォンもSさんのパソコンもすでに電源を切っていて、動画が再生されているわけではないということはすぐにわかりました。
そもそも、その声は作業室の外から聞こえていました。
顔を顰めて立ち尽くしているSさんに代わり、
私が廊下の様子を見に行くことにしました。
「すみません。誰かいるんですか?」
廊下はすでに消灯していて真っ暗。呼びかける私の声が反響するだけで人の気配はしませんでした。
「もういいよ。帰ろう。」
いつの間にかSさんが二人分の荷物を持って、私の背後に来ていました。礼を言って荷物を受け取ると、二人で足早に作業室を去りました。
——————–
翌日の朝、私が作業室に行くとそこにSさんの姿はありませんでした。他の学生が数人いたので、彼らにSさんを見なかったかと問うと、今日はまだ来ていないと言うのです。
彼女は普段、朝一番に作業室に入るので、私は大層不安になって、彼女にチャットアプリでメッセージを送りました。
返信はありませんでした。
その日の夜、作業室で一人、だらだらと作業を続けていたとき、デザイン学部の学生全員が参加する全体チャットにSさんからメッセージがありました。
何故私のメッセージには返信をくれないのかと訝しみながら、チャットを確認すると、そこにはこう書かれていました。
『今年度は卒業しないことにしました。
卒業制作展への出展も見送らせていただきます。
ご迷惑をおかけしてすみません。
S。』
これを、Sさんが留年することになったと受け取った学生たちが次々に励ましや労いのメッセージを送信していました。
私はというと昨日のこともあり、やはり不安が募ったので、個人チャットとグループチャットの両方で、それとなく何かあったのかと尋ねました。
やはり返信はありませんでした。
その後も、時間があるときに電話をかけたり、共通の知人に頼んでコンタクトを試みましたが、Sさんに連絡が繋がることはありませんでした。
更に困ったことに、Sさんは随分前に一人暮らしのアパートを引き払って、実家から通学することにしたと話しており、
私は彼女の実家について、大まかな住所しか知らなかったため、直接会いに行くということもかないませんでした。
Sさんについてゼミの教授は、「毎年、卒業前に音信不通になる学生はいる。卒制について思い詰めすぎて、身体を壊しちゃう人もいるしね。」と残念そうに話しました。
私も、突然音信不通になって数年後にひょっこり復学する学生が芸術系には多い、という噂を聞いたことはありました。
しかし、どうしてもSさんがそのようなことをするタイプには思えませんでした。



























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