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心霊

ブリ子さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

インカム
短編 2025/12/03 17:11 350view

 私の勤めている家電量販店では、変わったルールがある。

 

 インカムとは複数人が同時に接続できる無線機器のことだ。身近なところで言うと、駐車場誘導員やキャバクラの黒服やパチンコ店スタッフ等が使っている姿をよく見かける。

 広い売り場でお客様にお待たせしないよう、従業員同士の速やかな連携を可能にすべく導入されたインカムだが、普段はなど、全体への発信が主な使いみちになっている。
 全体に宛てたインカムの他に、1対1で通話のように使える個別インカムというものもあるのだが、大体はやなど全員に宛てるには取るに足らない内容を仲の良い従業員に発信することが多い。

 その個別インカムに、時折変なモノが混じるのである。

 は大体2、3ヶ月に一度程の頻度で生じる。声は機械音声だったり男性の声だったり女性の声だったり子どもの声だったりと様々だ。
 私に宛てたは今までに
というものがある。

 量販店で飛び交う言葉を取り留めなく繋げたような妙な羅列だ。なのでをもらったときにはすぐに、ああこれが例のかと理解できる。
 人というのは慣れるもので、初めのうちは不気味で仕方がなかったけれど、文言があまりに滑稽なので慣れてしまった。インカムが系列の他店舗と混線してしまったのでは?というのが主な説になっている。

 という決まりができるからには、それを破った人にはなにかペナルティが起きるのではという危ぶみもあるかとは思うが、私の知る限り返事をした人が居ないためわからない。
 歴の長いKさんにに返答をした人はどうなったのか聞いたことがあるが、特に悪いことは起きず、不気味だと全員辞めてしまったらしい。
 噂だとに返答して辞めた人は死んでしまうという都市伝説じみた話もあるが、返答してしまった人はいずれもオープンメンバーでその上オープンしたばかりの頃に辞めていったため、現行のスタッフとは誰とも個人的な連絡先を交換しておらず、実のところ安否はわからないそうだ。

 夏商戦が終わり決算セールも終わってブラックフライデーを間近に控えた時期。いわゆる閑散期と言われるタイミングだったため、私はKさんと一緒に棚卸しや売り場のメンテナンス等、作業に勤しんでいたときのことだった。

 耳元のインカムイヤホンが、ピピッと個別インカムの通知を告げた。(全体のインカムと個別インカムの通知音違うためすぐにどちらかわかる)

 Kさんの声だ。

 とっさに、インカムの有線イヤホンの通話ボタンを押そうとする。

 しかしKさんは今私の目の前で業務用のパソコンを操作している。

「Kさん。私にインカム飛ばしてないですよね?」

 Kさんがインカム操作していないのはこの目でたしかに見ていたが、今届いた個別インカム、あまりにも声も話し方の癖も間の取り方もKさんそのものだった。

「僕ずっとパソコン使ってたけど。何かあった?」
「いや……、今Kさんの声で個別インカム飛んできて……」

 私の言葉を聞いたKさんは愉快そうに笑う。

「もとうとうここまで来たか。明らかに成長してるね」

 信じたくはないが、今の個別インカムはから送られたもののようだ。
 目の前にKさんがいなければ間違いなく返事をしてしまっていただろう。

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