「前にね、新人さんが知らなくてM美ちゃんを引き渡そうとしちゃったんだけどね、M美ちゃんお母さん来たよ~って呼んだ拍子にフっと消えちゃって。M美ちゃんもまだ小さくてお母さん亡くなったなんて理解してなかったから、ワァ~ってなっちゃって。それからは、さっきみたいにお父さんがお迎えに来ました~って言ったら納得して帰っていくから、そうしてるのよ。そそっかしいお母さんだったから、お父さん先に迎えに来てるのに連絡見ないで迎えに来ちゃったり、忘れ物多かったり、大変な方だったけど、こうなっちゃうとほんとうに悲しくて悲しくて……」
ベテランの先生の話には、いまだ半信半疑だったが、亡くなってからも我が子を迎えに保育園まで雨の中あらわれる姿を思い起こすと胸に詰まるものがあった。
既にもうその保育園では働いていないが、退職するまでに、私も何度かM本さんの対応をしたことがある。
なるほどよくよく見ると、水溜まりに足跡の波紋が無かったり、門に近づくと不意に消えたりと生きている人間らしさは無かった。
今でも冬の雨の日に、少し息を切らして、迎えに来れたとほっとした顔でやってくる姿をふと思い出すときがある。
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