知り合いの話です。
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昔、盲腸で入院した時のこと。
学校では私の入院する病院は”幽霊病院”として有名だった。
なんでも、病室に幽霊が出るのだそうだ。
怖い話が流行っている時期でもあったので、その手の話は沢山聞いた事があった。
その病院に関する話に共通しているのは大体似たようなもので、
『ずっとこちらを見ている』だとか、
『目を合わすと笑う』など、ありきたりでつまらない話が多かったのだが、中には、
『連れていかれる』
『人のフリをしている』
という話も聞いたことがあった。
今思えば、誰にそんな話を聞いたのか全く思い出せないのだが。
正直かなりビビっていた。
それに、入院することも、もちろん手術も初めてだった。まだ小学生の私には、幽霊の部分を差し引いても、あまりにも心細すぎた。
幸い、盲腸自体の症状は軽く、とりあえず抗菌薬治療で様子を見るという流れになった。手術が1番の不安要素だったので、かなりホッとしたのをよく覚えている。
その夜のことだった。
様々なドキドキと不安。病室は怖いしで、あまり眠れず。
妙に冴えた目でボーッとしていると、どこか視線を感じる。
『病室の隅にいる』
『じっと見ている。』
この病院の噂話だ。
寒気がした。背筋が凍るとはこの事か。
見たくない。そうは思っても、気のせいだ。と確信付けるには、この目で見て、何もいないことを確認しなければならない。
布団を被り、目だけを出した状態で、震えながら視線を感じた方を見た。
どうせ何もいないと、心のどこかでタカをくくっていた。
死んだ目をした半透明の男を、実際にこの目で見るまでは。
閉めたカーテンの隙間、わずか数センチにも満たないそのスペースに、その男が鼻から上だけを出してじっとこちらを見ていた。
それを見た瞬間、意識を手放していた。





















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