俺は悟った。あの天井の手形も、この顔も――同じ根を持つものだ。
壁の奥には“何か”がいる。
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片付けが終わる頃、壁の隅の蓋が外れているのに気づいた。
前の住人が塞いだ穴が劣化で剥がれたらしい。
覗き込んだ俺は息を呑んだ。
――穴の奥は、大量のお札でぎっしりと埋め尽くされていた。
古び、湿気で黒ずんだお札が幾重にも折り重なり、壁の奥を塞ぎ込んでいた。
触れてはいけないと本能が叫んだ。
あれは「封じるため」か、「出られないように」閉じ込めるためか……。
⸻
そして今
あれから35年の時が過ぎた。
あの市営住宅は取り壊され、新しい建物へと生まれ変わっている。
だが、俺には霊感の強い2つ上の兄貴がいる。
当時は「頭がおかしいと思われる」と黙っていたが、実は幼少期からずっと“見えていた”らしい。
先日、兄貴にあの市営住宅の話をした。
すると淡々と告げられた。
「……あそこには、地縛霊が何体も住み着いていた。だからお前が見たものも、全部“自然現象”なんかじゃない」
俺の背筋は凍った。
新しく建て直された今も――そこに“いる”のかもしれない。
ただ、見えなくなっただけで。
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