もしかして今それがいる反対側、つまり壁側であれば向いてしまっても構わないのではないかという考えがふと頭をよぎった。
そいつと対面さえしなければ…
その考えと共に意識が自分の左側に集中する。
途端にそれを後悔した。
—–壁側にも何かがいたのだ。
正確に言えばベッドの下から顔を半分出す形で何かがこちらを覗いていた。
視界の端で感じる気配で断定は出来ないが、左側のそれは右側のそれとは違いただじっと、私がそちらに寝返りをうつのをただ待ち構えているかのようだった。
私のベッドは部屋の奥の壁にピッタリと沿う形で配置されている。
壁とベッドの間に人が顔を出せる隙間など無いのだ。
ならば今左側で頭を覗かせているものは一体なんだというのか。
全身から汗が吹き出す。どんなに暑くても今は動く事はできない。布団という安全圏から体を出したく無い…………
………いつの間に私の両足は布団から出ていたのか。
ふと足に感じた冷気でそれに気付いた頃には私の両足は冷たい何者かの手にガッシリと掴まれていた。
そのまま強い力でグイと引っ張られた私はベッドから引きずり出されるような形で床に背中から叩きつけられた。
背骨から全身に走る衝撃と痛みで思わずグゥッと声が漏れる。
ベッドから落ちた事で右側のそれとの距離が縮まり、それが次にまた覗き込めばしっかりと真上で顔を合わせる事になると察知した私は咄嗟に強く目をつぶった。
その直後、私の顔を覗き込むそれの気配を瞼の外に感じた。
あと1秒目をつぶるのが遅れていたらきっと顔が見えてしまっていただろう。
それは私の顔を覗き込んだ体勢のまま何かをブツブツと呟いていた。
それがあの録音で聞いた男の声だと気付いた時、吐き気にも似た恐怖が全身を駆け巡る。
左側のベッドの下から何かが這ってくる。
先ほどベッドから顔を出していたものだと直感で察知する。
ズルズルと体を引き摺りながら近づいて来たそれは私の顔の真横で止まった。
「これならきこえますか」
地の底から響く様な低い男の声でそれが呟いた。
私は弾かれた様に目を閉じたままその場に立ち上がった。
これは最早寝返りをうつうたないの問題ではない。このままいたらきっともっと悪い事が起きる。
そう思った私は目を瞑ったまま手探りで部屋の外を目指した。
すぐ横に顔を覗き込んでいたそれの存在を感じる。
目は見えないが何故かこちらを向いている事が分かってしまう。























暗闇の中で更に目を開けられない状況って、それだけで普通は耐えられないくらい恐ろしい。
最後はどういう意味なんだろう?
めちゃくちゃ寝癖付いてたんかな。