『選んでしまって大変申し訳ございません。これはテストではありません。
——-寝返りをうたないでください。
今日は…ザザザ…今日だけですよ。
寝返りはだめです。ザザ…ザ…ごめんなさい。』
時折入る砂嵐のような雑音はどこか電波の通りが悪い所からかけているからだろうか。
『横を向いたら…ザザ…駄目です。絶対に』
ここから雑音とともに女性の声が徐々に遠くなっていく。
その後ろで微かに聞こえる別の音。
男性の低い声の様だった。
すごく遠くで何かを淡々と話しているような声だった。
スマホのスピーカーの音を最大まで上げるがその声はあまりに小さく聞き取ることが出来ない。
なんとか聞き取ろうとスピーカーに耳を近づけた瞬間—
“オヤスミナサイ”
低い男性の声と女性の声とが混じった様な音声が大音量で私の耳を貫いた。
私は思わず叫び声をあげてスマホを地面に投げ捨てた。
再びスマホを拾い上げ画面を見たが、録音はそこで切れていた。
一体この着信は何を目的にかけてきたものだったのだろうか。
本当に自分宛にかけたものなのだろうか。
ただ最初に「選んでしまって申し訳ありません」と謝っていた。
何かしらの理由で私を選んでかけたということか。
疑問点が多すぎて頭がついてこない。
全く聞き取れなかった男性の声は何だったのか。
再びスマホの文字起こしに目を移す。
文章の中で一際目を引く”帽”の文字の羅列。
スマホは一体男性の声の何を聞き取ったのだろうか。
暗闇の中遠くにポツンたたずむ男。その男は黒く窪んだ目でこちらを見ながら無表情で口をパクパクと動かしている。
私は頭に浮かんだ気味の悪い映像を必死に掻き消した。
何より1番気にかかったのは、寝返りをうたないでという指示だった。
寝返りは駄目だ、絶対に横を向くなと。
全く意図は理解できないが私は得体の知れない恐怖をじりじりと感じていた。

























暗闇の中で更に目を開けられない状況って、それだけで普通は耐えられないくらい恐ろしい。
最後はどういう意味なんだろう?
めちゃくちゃ寝癖付いてたんかな。