私が小学生の低学年だったころ、白いマンションに家族と暮らしていた。
そのすぐ隣には、私の住むマンションよりも少しだけ大きな茶色いマンションが建っていて、私はそこで暮らす名前も知らない男の子2人と、毎日のように遊んでいた。その男の子2人は家族ぐるみで仲の良い幼なじみのようで、遊ぶ時はその2人組に私が加わる形だった。そのことから彼らは私が来るやいなや、「また来たのかおまえ笑」などとからかっていた。
また、彼らとは同じ学校ではないようであった。
すぐ隣のマンションで、地区も一緒のはずなのに、学校で一度も顔を見たことがなかったのだ。学年が違ったとしても、学校に何年も通い、顔を見ないということがあるだろうか。
当時は気にしていなかったが、大人になってから考えると――妙だな、と思った。
その時代は3DS全盛期で、みんなバ○ターズや、マ○オカート、リ○ム天国などで友達と遊んでいたが、私が彼らと遊ぶときはいつも3DSは一切使わず、マンションの階段や廊下、エレベーター、裏手の駐車場で、鬼ごっこをしていた。
駐車場のあたりは、ちょうど薄暗くて、でもどこかワクワクする、子ども心にちょうどよい“秘密の遊び場”だった。
私は最近ふと思い出し、その茶色いマンションのことが妙に気になった。
懐かしさ半分、不思議な違和感半分で、Googleマップを開き、当時の記憶をたどってみた。
だが――そこには決定的な違いがいくつもあった。
鬼ごっこで逃げ込んでいたはずのエレベーターがあったはずの場所に、今は存在していなかった。
走り回ったエントランスは、形も向きも記憶と違っていた。
なにより、裏側の駐車場……あのスリル満点の“遊び場”は、そもそも存在すらしていなかったのだ。
「あれ? 俺、、あれ、、、?」
半信半疑のまま、画面をズームし、何気なく2階のベランダを覗き込んだ――
そのときだった。
ベランダの柵の隙間から、ふたりの“男の子”が、じっとこちらを見ていた。もちろん静止画だったが、確かに男の子が二人いた。
虚ろな目。
青白い肌。
笑っているような、悲しんでいるような、表情のない顔。
「……また来たのか、おまえ。」
そんな声が、頭の奥でぼそりと響いた気がした。
私ははぞっとして画面を閉じた。
ふと、母に「小学生の頃、よく放課後どこで遊んでたっけ?」と聞いてみると、母はこう答えた。
「近所の駄菓子屋でしょ。あんた、同じ小学校の子たちと毎日DSしてたじゃない。」
茶色いマンションの2人と、毎日遊んでた記憶。
私の中ではあんなに鮮明だったのに――母の記憶には、一切残っていなかった。
じゃあ、あの毎日――あの鬼ごっこは、いったい誰と遊んでいたんだろう。
いまだに、あの茶色いマンションを通り過ぎる時、私はそちらをまともに見ることができない。























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