「当時のままでしたよ」
缶を開ける。
「空気凍りましたよね」
女が嗤っていた。
「え……何、これ……誰が入れたの……?」
血の気の引いた顔でSちゃんが尋ねる。
もちろん誰にも覚えがない。
「五十代くらいかな。特徴のない、どこにでもいる感じの……」
「大小様々な比率で同じ女の顔が一枚紙へ無数にコピーしてあって」
Kさんが手で四角を作る。
「その紙で、僕たちの持ち寄った品々を包装してあったんです」
「誰だよこれ……気持ち悪……」
すっかり酔いの醒めたTくんが他の三人を見まわす。
「誰も抜け駆けとかしてないよな? 悪趣味だぞこれ……」
10年間、誰も掘り返したはずのない缶の中で、誰にも見覚えのない女が嗤っている。
その異様さが、誰にも思い出の品々に手を伸ばさせなかった。
悪質なイタズラという話に落ち着き、缶は埋め戻すことにしたという。
「Tくんなんですが」
唐突にKさんは話題を変えた。
「デザイン系の専門学校に通ってるんですけどね」
校内で課題を制作していた時に、前方の学生のPCが目に入った。
「映ってたらしいんですよ」
モニターに。
同じ顔。
「次の瞬間、学生は画面を切り替えちゃったんで、見間違いだったのかもしれないって言ってましたが」
「その話はSちゃんとも共有しました」
「Sちゃんには、今のところそういう体験はないそうです」
「でも、ちょっと体調崩してるみたいで。彼氏さんと同棲してるんで大丈夫だとは思うんですけど……」
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