昔経験した、不思議な体験のお話です。
当時は夏休み、列車に乗って今まで行ったことのない街に繰り出しては日が暮れるまで遊ぶのが日課になっていました。
そしてその日は、数駅先のとある海辺の街に行くことにしたんです。その駅周辺は海に沿って線路が敷かれており、そのうち行ってみたいと常々思っていた場所でした。
駅から出ると正面には住宅街。左右に線路に沿って道が続いており、右手には小高い丘、左手には線路と道路がカーブしていてその先には水平線。
そのまま左に曲がってずっと歩くことにしました。
線路に沿って歩いていくと、すねくらいの長さの棒にくくりつけられた小さな鏡が線路側の道脇にぽつぽつと一定間隔で並んでいました。
はて、ここあたりに神社なんてあったかなぁと不思議に思いながらもそのまま歩いて行きました。
14個までは数えましたが、面倒になって途中から数えるのをやめました。多分30個近くか、それ以上はあったんじゃないかな。
その鳥居の行列は道路のカーブのちょうど中央で途切れていました。
振り返って、丘を見てみたんです。
そしたら、丘の上にこちらを見ている人影がありました。
さっきあんなところに人いたっけなぁ、とぼんやり見上げていると、こっちに向かってなにか叫んでいるように見えました。
なんだ?とふと先程歩いてきた道に目線を下ろすと、
大勢の人が丘に向かって走っていました。
今の今まで人の気配もなかったのに、突然。
幽霊?と驚きましたが、不思議と恐ろしさは感じず。
その場に立ち尽くしたまま必死に走っていく人達を眺めていました。
少し古そうな服装。こちらを何度も何度も振り返る顔には、恐怖が張り付いていました。
丘の上にいる人達はこちらに大きく手を振って何かを叫んでいます。
不思議なことに、海の波の音しか聞こえてきませんでした。
叫んでいるはずの丘の上の人の声も、後ろから走ってきて目の前を通り過ぎていく人々の足音も。
と、後ろからざばん、と何かが迫りくるってくる感覚がして、目の前を水が覆いました。
海に行ったとき、大きな波が覆いかぶさってくるときの感覚と似ていました。
ぞくりと背筋が凍るような、不愉快な感覚が全身を襲い、ぎゅっと目をつぶってしまったんです。
数秒ほどで波の感覚がなくなっていき、不愉快な感覚も通り過ぎていきました。
恐る恐る後ろを振り返ってみると、波のない、とても穏やかな水平線が見えました。
あれ?と前を見ると、誰もいない。丘の上にも、誰もいない。
私一人が、ぽつんと取り残されていました。
後日聞いた話なのですが、昔あのあたりで津波が起こり、逃げ遅れたたくさんの人々がなくなってしまったんだそうです。
もう少しで丘に着く、というところで波にさらわれてしまった人もいたとか。
あの日起きたのは、当時の追体験のようなものだったのかな、と思っています。
そして、あの道にあった小さな鏡は、海に消えてしまった人々を迎え入れるものとのこと。
その土地ではお盆などでは小さな鏡を用意してご先祖様をお迎えする風習があるそうで、それに習って遺体の帰ってきていない人々がせめて魂だけでも帰ってこられるように、と置かれているそうです。
その話を聞いたあと、またその駅に出向き、近くにあった慰霊碑に手を合わせてきました。























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