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ヒトコワ

廃子さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

ラクゴ
長編 2025/05/21 15:39 2,149view
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予めご了承いただきたいのは、この話に所謂”ホラー”定番のオチは無いことです。
人は死にませんし、ただ不気味だったなぁ、といった程度のお話です。本当に。

私の友人の話をします。

仮に名前をKとしましょう。私とKは小学生の頃、時たま放課後に落ち合っては遊ぶ仲でした。

住んでいた地域はそれなりに田舎でしたが、返って不思議な遊びが溢れていたものです。
見ず知らずの植物を手折って、茎から溢れる液体で地面に絵を描いたり。ナタを片手に背丈草をかき分けて、草木で出来た天然の隠れ家の中、二人で恋バナをしたり。

親友ほどではありませんでしたが、お互い野生児気質と言うのでしょうか、どこか趣味が合うものですから、気づけば仲良くなっていました。

ただ時折、彼女は少し変わった事を言いました。

「私のお父さん、オチゴに連れてかれちゃうかも」

初めてそれを言われた時、思わず聞き返したのを覚えています。「オチゴ?」と聞いても「ん、オチゴ」としか教えてくれなかったので、当初は少々不気味に思っていました。
しかし帰って母に聞いたところ、彼女の父親が家業で”落語家”をしていたらしく、「きっと音読みしてるのね」とうふうふ笑っていました。要はKの読み違いです。

私も小学生でしたので、オチゴ=落語だと知ったところでKに指摘はしませんでした。正直あまり気にしていなかったのだと思います。

確か、その翌週でした。
放課後Kと落ち合い、いつもの遊び場へ行こうとしたのですが、彼女が1歩も動こうとはせず私を見つめ、……何か悩んでいる様子でした。いつも快活に笑う子なので不思議に思って近づくと、

「……あのね、オチゴ、……あ、落語(ラクゴ)。お父さんね、落語、連れてかれるかも」

どうやら彼女も1週間のうちに「オチゴ」ではなく「落語」であったことを知ったようで、ニマニマする私の袖を引っ張るように、いつもとは逆の方向へ連れていこうとしました。
「連れてかれる」とは今考えれば変な言い回しですが、当時の私には「落語に連れてってあげる」に聞こえたのでしょう。私は抵抗することもなく、数百メートルほど歩いた先の彼女の家まで着いて行きました。

和風建築の大きな家です。

道路にはみ出ている梅の枝を引っ張って、ビョンと揺らすと「それお母さんに怒られるからダメ!」とKに怒られたので、大人しく裏口からお宅にお邪魔しました。

部屋は障子で仕切られ、どこからかラジオのような音が聞こえてくると思えば、Kが「落語!落語!」と興奮気味に言うのです。その時、そのラジオのようなハキハキした声が彼女の父親の声だと知りました。

少し残念な気持ちでした。
当時、落語のイメージはこう、何て言うのでしょう。大広間のような場所で着物を着たお坊さんが楽しげに音読している……というイメージでしたので、まさか家の中で朗読しているとは思いもよらなかったのです。きっと練習中だと幼心に分かったので

「Kちゃんパパの邪魔しちゃうから、私帰るよ」

と言いましたが、Kはぐいぐい袖を引っ張るのです。
なので、仕方ない、と大人しくKの後に続きました。
障子をゆっくり開け、襖の隙間を通り、廊下に誰かいないかチラリチラリと確認して駆け抜ける。途中からミッションインポッシブルでもやっているような感覚で、その時にはKの言う「落語」を実際に見てみたいと思っていました。

しかし、途中で彼女の足がぴたりと止まりました。

口元に指を当てて「見て」と小声で言われ、廊下の角から覗き見るように顔を出して。朗読の声はもう間近。それどころか目前の部屋の中から聞こえていたので、遂に到着したと思ったのです。

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コメント(2)
  • よくわからないな

    2025/05/25/05:17
  • 芸事に打ち込むあまり「何か」を引き寄せることがあるかもしれませんね
    これ自体がひとつ怪談落語になりそうです

    2025/07/12/13:15

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