次に相談してきたのは、同僚の女性・田嶋さんだった。
彼女はふだんしっかりしていて、どちらかというと他人の話を「気のせい」で片付けるタイプ。そんな彼女が、ある日ぽつりとこう言ったのだ。
> 「帰宅すると、部屋が……微妙に変わってる気がするんです」
最初は気のせいかと思ったという。
鍵は閉まっているし、侵入の痕跡もない。
けれど、毎晩仕事から帰るたびに、**部屋の中の“どこかが、少しだけ違う”**と感じるようになったという。
たとえば——
・リモコンが置いたはずの角度と微妙に違っている
・カーテンの隙間が、朝出るときより数センチだけ開いている
・冷蔵庫の中のペットボトルのラベルが、180度回転している
一つひとつは取るに足らない。けれど、それが毎日、必ず1箇所ずつ起きているとなると、話は別だ。
—
ある晩、彼女はふと思い立ち、スマホで玄関に小型カメラを仕掛けた。
翌朝確認しても、誰も出入りしていない。
ただ——
深夜2時13分。部屋の中がほんの一瞬、暗闇の中で“動いた”気配があった。
画面の明度を上げてコマ送りで見ると、暗闇の中で天井近くに“人のようなものの頭”が、逆さにスッと移動していたのが映っていた。
「それ、私じゃないんですよね……でも、家にいた“何か”だと思うと、ほんとに怖くて」
—
私は話を聞きながら、心のどこかで妙な静けさを感じていた。
田嶋さんの背後には、私が知る限り、“黒い影の気配”がなかった。
つまり、彼女は「守られていない側」だった。
だからこそ、侵入を許してしまったのかもしれない。
私はできるだけ穏やかに、こう伝えた。
「部屋の一箇所にだけ、決して動かさないものを置いて。毎朝、それを見てから出かけてください」
> 「そして帰ってきて、もしそこが変わっていたら——」
「すぐに、別の家に泊まったほうがいい」























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