Switchやろうぜ。

おそらく、こっちのアツシが偽物ということか。早く部屋に逃げよう。幸い、俺は独りじゃない。アツシと二人でいれば——

「おい！トモキ！早く逃げろ！！“そっち”は俺じゃない！！！何してる！早く出てこい！」

——玄関の声が叫ぶ。

「は……？」

思わず声が出た。ドアスコープを覗く。必死に呼びかけるアツシの顔。どこからどう見ても、苦楽を共にした友人だった。

「何してるんだよー」

無機質な声が、後ろから聞こえた。思わず振り返る。

そこには、心配そうな顔をしているアツシが立っていた。

「おい……それのことは気にすんなって。早く……ゲームしようぜ……？」

目がおかしい。完全にイッてる人の目。瞳孔が開きっぱなしで、不自然なほど瞬きをしていない。

その時、カツン、と音がした。

アツシがさっきまでSwitchを持っていた右手には、先ほど床に落ちていた金槌が握られている。

「早く来いよ。Switchやるんだろ？」

「なあ、早く来いって……」

「何してんだよ。おレたち、ともだチ、だろ？」

声からは、なんの感情も感じられなかった。

まるで合成音声のようだった。アツシの声を“模倣している”ような、それでいてどこかズレた奇妙な響き。

俺は玄関に背を当て、ただ震えるしかなかった。

今、目の前にいるアツシは、一体“何”なんだ……？

さっきまで普通に話していた。その事実にゾッとした。

玄関では、外のアツシがまだ扉を叩き、叫び続けていた。

「おい！早く逃げろ！！玄関を開けろ！俺が本物だよ！早く！！」

意を決して、玄関を開けて逃げようとした。

鍵を開け、ドアノブに手をかけたその瞬間——

玄関の音が、ピタリと止まった。

耳を刺すような静寂。息を呑む一拍のあと、外から低い声が響いた。

*

「……ま、どっちもハズレなんだけどね」
[完]