そしてかつて居住していたAの3棟の正面に立つと、しばらく感慨深げに見上げていた。
よく見ると建物の壁にはヒビが走り塗料は
あちこち剥げ落ちていて、年月の経過を思わせる。
棟前の区画された駐車場には数台の車が停車されていた。
アスファルトはあちこちひび割れ、隙間からは雑草が顔を出している。
「こんにちは」
傘をさした老婆が挨拶をして前嶋の横を通りすぎていく。
すると数人の小学生たちが奇声を上げながら団地の中に入っていった。
それから彼はさらに奥に歩き進むと、市之助くんが招待してくれた棟の前まで歩いた。
入口から一歩中に踏み込んでみる。
そしておかしなことに気付いた。
それは視界の前方右手に見えているエレベーター。
━あれ?確か、この棟だけエレベーターなかったはずなんだがな
荒れた集合ポストの前で彼が頭を傾げていた時だった。
背後にゾクリとした気配を感じた前嶋は、思わず振り返る。
そしてハッと息を飲んだ。
※※※※※※※※※※
そこは棟正面の雨に煙るアスファルト。
男の子がポツンと立っている。
降りしきる雨の中、傘もささずに。
白いトレーナーと黒い半ズボンという出立ちだが、その顔も手足もボンヤリと黒くてどこか危うい感じだ。
前嶋は市之助くんとの出会いの場面を思い出す。
「市之助くん?」
前嶋の発した震える声に男の子は全く無反応のまま歩きだし、彼の視界から消えた。
後を追う前嶋。
降りしきる雨の中男の子は歩き進むと、敷地を囲うフェンスの穴をくぐる。

























こんなに感動したものは初めてです。
名作じゃんけ。
コメントありがとうございます
─ねこじろう