「おーい、ここだー、助けてくれ」
声は雪洞の中からはっきりと聞こえた。
「大丈夫ですか?」
津田さんは急いで穴の中を覗いた。
そこには人が一人横になるくらいの空間があった。
薄暗い穴の中には明かりの消えたランタンとボロボロの寝袋とザックが転がっていた。
どれだけ見回しても、人はいなかった。
ここだよー誰かー
誰もいない寝袋の中から、それは聞こえた。
にわかにゾッとして、すぐに雪洞を離れた。
津田さんが登山道に引き返そうとすると、またおーいと声が聞こえた。
雪が再び勢いを増して降ってきた。
津田さんはそのまま下山した。
相変わらず声は津田さんを誘うように度々聞こえてきた。
最後の方は雪でほとんど視界がきかない中、滑り落ちるように山を下った。
津田さんはあの日、雪洞の中のボロボロの寝袋とザックを見て、あんなに熱かった登山熱が一気に冷めたのを感じた。
いつか自分も、あんな風に装備を残して山に消えてしまいそうな予感がした。
その後高校を卒業し、部活をやめてからは一度も山へ登る事はなかった。
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これは怖いよ。
ぞくぞくした。
装備品がそのままって事は八甲田山の兵隊の様に気が狂ってしまったのかな