謎の幻覚

バス停で降りて、現場である百貨店前まで歩く。
その間おっさんと何の話をしたかはよく覚えていないが、お互い興奮しきっていて「110番の準備しときます！？」とか、そんな話をしていたように思う。

しかし現場に着くと、そこには何もなかった。
死体はおろか、血痕すら残っていなかった。
あれだけ死体をグチャグチャにしていたら何かしら残るだろうし、そもそも大した時間も経ってないのに中学生くらいの女の子ひとりで死体の処理ができるのか？とか色々考えを巡らせたが、無いものは無いのだ。
おっさんも「え……？あれ……？」とずっと首を傾げていた。

結局俺たちは、狐につままれたような気持ちで別れた。
(ありがたいことにおっさんがタクシー代をくれた)
帰宅後も興奮してなかなか寝付けなかった。
見たのが俺一人であればうたた寝をして見た夢として片付けられるが、なんせもう一人目撃者がいるのだ。

集団幻覚？何かのパフォーマンス？
色々考えたが答えは見つからなかった。
その後、地元のニュースを細かく調べたけど殺人事件の報道はなく、念のため過去にあそそで何かがあったのではと昔の新聞も漁ったが、それらしい情報は見つからなかった。

それから数年経ち、会社近くのスナックで同僚と飲んでいた時に、何故かその場のみんなで怖い話をしようって流れになった。
初対面の客も交えて擬似百物語がスタートすると、とある女の子が「この間、百貨店前の歩道で殺人事件の幻覚を見た」という話をした。
それは間違いなく、あの日俺が体験したものと同じシチュエーションだった。
その女の子はタクシーでその光景を見て、慌てて降りたがもうそこには何もなかったという。
俺は思わず自分も同じ体験をしたと伝えた。
同僚も当時俺からその話を聞いていたので「確かにそんな話してたな」と頷いてくれた。
しかしだからといってあれが何だったのか解決するわけでもなく、いつの間にかその話題も終わっていた。

しかし俺はいくつか気になっていたことがあった。
彼女の体験と俺の体験には、何点か違いがあった。
まず彼女は「おじさんがセーラー服姿の女の子を鍬で殺していた」と言っていた。
俺が見た時は、セーラー服姿の少女が鍬を振り下ろしていたはずだ。
そしてもう一つ、彼女はタクシーの運転手に自分が見たものを伝えたが、運転手にはそれが見えなかったらしい。
「お酒飲み過ぎたんじゃないですか〜？」
とヘラヘラ笑われ、腹が立ってタクシーを降りて自分で確認しに行ったのだという。
俺の場合は目の前にいたおっさんも同じ光景を見ていたはずだ。
この違いは一体なんなのか。

ちなみに俺はあれ以来、何度か終バスに乗ったがあのおっさんとは一度も再会していない。
すっきりしない終わり方で申し訳ない、もし同じような体験をした人がいたらぜひ詳細を教えてください。