次の停車駅は地獄です
投稿者:チョコラブ (3)
仕事が終わり、俺は重たい足取りで駅へと向かった。夜の冷たい空気が、肌を突き刺すように感じる。疲れきった体を引きずりながら、無意識にスマホを取り出し、SNSのタイムラインをぼんやりと眺めた。
電車の到着まであと5分。見慣れた風景のはずなのに、どこか異様な静けさが漂っていた。
ふと、背中に冷たい視線を感じた。
振り返る。だが、そこには数人の乗客が立っているだけで、誰も俺を見ていない。……いや、本当にそうか? 背筋に冷たいものが走る。
「気のせいだろ……」
自分にそう言い聞かせ、再びスマホの画面に目を戻した。しかし、視界の端で何かが動いた気がして、思わず顔を上げた。
そこには――何もなかった。ただ、静まり返ったホームがあるだけ。
カタン――カタン――。
電車がホームに滑り込んできた。俺は安堵したように車両に乗り込む。けれど、ドアが閉まった瞬間、妙な違和感が全身を包んだ。車内は異様に静かで、乗客たちも無表情のままじっと座っている。空気が重い。
窓の外に目をやると、見覚えのない景色が広がっていた。どこだ、ここは……?
「次は……バラバラ駅……バラバラ駅です……」
低く濁った声のアナウンスに、背筋が凍る。そんな駅、聞いたことがない。
電車がゆっくりと駅に止まる。看板には、赤黒い文字で**「バラバラ駅」**と書かれていた。ホームに目を向けた瞬間、血の気が引いた。
斧を持った男がゆっくりと歩きながら、人の手足を次々に切り落としていた。切断された四肢が床に転がり、周囲には絶叫と肉の裂ける生々しい音が響き渡る。バラバラになった身体がうめき声を上げながら、這いずっていた。
「降りたら終わりだ……」
俺は必死で目をそらした。ドアが閉まる音が救いに思えた。
電車は再び走り出す。だが、安堵する間もなく、次のアナウンスが響く。
「次は……虫食い駅……虫食い駅です……」
吐き気が込み上げる。窓の外には、暗闇の中に何かが蠢いていた。
電車が停車すると、ホームの人々が目に入った。いや、人なのか? 彼らは無表情のまま、無数のゴキブリのような虫を次々と自分の口に押し込んでいた。カリカリと甲殻が砕ける音が車内まで響いてくる。
「……やめろ……」
そう呟いた声が震えていた。耳を澄ませば、くぐもった声が聞こえる。
「おいしいよ……おいしいよ……」
俺はもう限界だった。目を閉じ、現実から逃げようと必死だった。
しかし、次のアナウンスが俺を引き戻した。
「次は……火あぶり駅……火あぶり駅です……」
電車が停車する。今度のホームは、燃え盛る炎に包まれていた。
無数の人影が、縄で逆さに吊るされ、じわじわと火に炙られている。皮膚が黒く焦げ、肉が弾ける音が耳に突き刺さる。誰かが焼け爛れた顔で俺を見つめ、口が動いた。
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