影のような男
投稿者:アスタリスク (2)
ある日、大学の帰り道、友人の佐藤(仮名)と一緒に歩いていた。私たちは、普段は賑やかな商店街を通るのだが、その日はなぜか気分が乗らず、少し遠回りして暗い路地を歩くことにした。
その道は普段あまり通らない場所だったが、特に何の疑問も持たずに歩き続けていた。空が薄暗くなり、辺りはすでに夜の気配を帯びていた。途中、古びたマンションの前に差し掛かった時、突然、視界の端に何かが動くのが見えた。
私は一瞬それが何か分からなかったが、佐藤が小さく声を上げた。
「今、あそこに人、立ってたよな…?」
私も目を凝らしてみたが、特に何も見当たらない。佐藤は顔をしかめ、もう一度その方向を見つめる。
「あれ、さっきまで絶対いなかったよな?」
私はその言葉に不安を覚えた。マンションの前に立っているその人物は、非常に不自然に見えた。身長が異常に高く、服装も奇妙で、どこか無機質な感じがした。頭の形も不自然に尖っており、顔が見えない。
「もう行こう、気味悪いよ。」私は佐藤に促して、その場を早足で歩き始めた。だが、足元を引き止めるように、佐藤が急に立ち止まった。
「待て、なんか…動いてる。」
再びその方向を見たが、今度ははっきりとその男が動き出しているのが分かった。ゆっくりと、まるで私たちの方へ向かって歩いてくる。
「やっぱり、気になる。」と佐藤は言ったが、私はその瞬間、背筋が凍るような感覚に襲われた。
その男は、ゆっくりと歩きながらも、私たちの目をまったく合わせることなく、ただ直線的に近づいてきていた。まるで無人のような、無表情な存在だった。やがて、その男が50メートルほどまで近づくと、私たちは完全に恐怖に包まれていた。
その時、男が突然止まり、無言で立ち止まった。目をそらすことなく私たちを見つめ続けている。その眼差しは、どこか人間ではないような、計り知れない冷徹さを感じさせるものだった。
「どうする? 逃げよう、早く。」私は佐藤に言うが、足が動かない。動かせない。
その時、男が口を開いた。
「……」
その一言が発せられた瞬間、私たちは足を止めた。
男の口から出た言葉は、ひとことで言うと――
「見たな。」
その声は、どこかに響くような、異次元的な響きを持っていた。私たちは息を呑み、無意識に後退り始めた。だが、男は一歩も動かず、ただその場に立ち尽くしている。
それから数秒後、私たちは一気に走り出した。振り返らず、ただただ逃げることに必死になった。
家に帰るまで、私たちは何も言わず、ただ無言で過ごした。その後もその男が何だったのか、何を言おうとしていたのかは分からないままだ。
だが、あれからしばらくしてから、佐藤が恐る恐る言った。
「俺、最近その男、街でよく見かける気がするんだ。」
私は言葉を失った。その瞬間、何か冷たいものが背筋を走った。
男は、確かにあの道に立っていた。そして、今も私たちを見ているのだ。
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