後悔と…
投稿者:えんたーさんどまん (1)
そんなアイルさんに、高校で初めてチエという親友ができた。
チエさんの家庭環境は複雑で、アイルさんが出会った頃には既に「悪い子」だった。
「チエはヤンキーだったし病んでたけど、超明るくて超いいヤツだったよ」
何処か遠くを見つめるように言う。
チエさんとそのグループの連中とつるむようになり、アイルさんの素行は日増しに悪くなっていく。
「最初の2年くらいは楽しかったんだ。チエと一緒にガールズバーでバイトしながら、親に見つからないように友達の家渡り歩いて、稼いだお金散財して。今思えば、無茶な生活してたと思う」
グループの中には、援助交際や薬をやってる子もいたそうだが、アイルさんとチエさんは、お互いの強い結束によって、一線を超えずにいた。
そんな健康優良不良少女な青春の日々は、とある男との出会いによって崩壊した。
ある時、グループのひとりから「良いバイトがある」と言われ、アイルさんとチエさんはファミレスに呼び出された。
店に入るなり、嫌な感じがしたという。平日の昼間…がらんとした店内の筈が、どこかざわついている。
奥の席には、呼び出した友人…ヨウ君と、中年の男が座っていた。
長身痩躯、白いワイシャツをきっちりと着こなし、紳士的な装いの清潔感のある男。
だが、霊感を封じ込めたはずのアイルさんにも、ひと目見ただけで「この男は何かおかしい、やばい」とわかったのだそうだ。
席に近づいた2人を確認したヨウ君が、一言二言何かを男に伝えると、男が立ち上がり「はじめまして。大井といいます」と言って握手を求めてきた。
チエさんが訝しみながらも握手をし、その次にアイルさんが大井の手を握る。
瞬間、ぐわん…とした嫌な感覚がして、めまいを起こしそうになった。
大井はそんなアイルさんの顔を覗き込むように見ると、ニコッと微笑んだ。
一刻も早くここから立ち去りたいと思ったが、チエさんを残してはいけない。
促されるまま、ヨウ君と大井の正面に、チエさんとアイルさんが座る。
大井は、その顔に穏やかな笑みをたたえており、まるで主導権は自分にある…という風に、テーブルの上で手を組んでいた。腕には高級時計が輝き、羽振りが良いというアピールでもあるように感じた。
そこで軽く食事を摂りながら1時間ほど話しただろうか。
会話の内容をまとめると、どうやらヨウ君が持ち込んだ「良いバイト」というのは、この大井という男に斡旋された金持ちの相手とデートをして大金を稼ぐ…というものであった。
体の関係は持たなくていい。そこは各自の判断であって、こちらからは強制しない。ただ、「そういうこと」もできれば、稼げる額はもっと上がる。
そんなようなことを、大井は終始笑顔を崩さずに説明した。
「すぐに応えなくて結構です。やる気になったら、1週間後の12日までにヨウ君を通して連絡をください」
そう言い残した大井は、4人分の会計が載った会計用紙を手に取り、ヨウ君を連れて席を立った。
「…なんだ。出してくれるなら、もっといいもん食べればよかったね(笑)」とチエさんは笑ったが、アイルさんの体は硬直し、冷や汗と吐き気でそれどころではなかった。
大井が会計をしている姿を遠目で見ながら、その後ろを「見ようとした」のだ。
やめておけばよかった…とすぐに思った。
彼の身体中には、様々な年齢の、タールのようにどす黒く変色した女性たちが獅噛み付き、すがり、悲鳴をあげていた。
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