鼠を好むモノ
投稿者:桧山 (1)
そしてある日の夜。
ふと目が覚めて目を天井の方に開けると、部屋のドアの近くに人らしきものがいた。
それは裸の様な肌色で、臍あたりから下が無かった。上半身のみで天井近い位置に浮いており、頭は完全なスキンヘッドである。筋肉の付き方は逆三角形で男性的であったが、顔の情報はボヤけた陰影のみで詳しい表情は掴めなかった。
その中で最も目を見張ったのは腕であった。
メリハリのない身長以上に長い両腕は前に突き出され、掌があるはずのその先端はクルンと内巻きになっている。
「は?」
としか思えず、ただ凝視しておくしかなかった。
それもそれで、何か私にアクションを起こす訳でもなく「ただただそこにいる」という風情で手を突き出して浮いており、私が瞬きする度に奥に遠のき消えていった。
私はあまりに急な出来事に付いて行けなかったのか、消えた後に
「変な物を見てしまった…」
と諦めに似た気分になりながら、これ以上考えない様にして再び就寝した。
その後は特に何も起こらず、謎も謎のままでいつも通りの日々が過ぎて行った。
天井裏の足音も転がる音もいつしかしなくなり、私は就職を機に実家を出て、その体験を思い返す事も減って行った。
そんなある日、霊感で商売をしている知人と話す機会があった。その人は商売柄妖怪や心霊の類は得意分野である。その時ふとあの体験を思い出し、ちょっとした面白ネタとして半裸の手長男の事を話した。
すると、
「それはもしかしたら『アカマタ』という妖怪かもしれない。」
とまさかの反応があった。
そして知人は
「アカマタは鼠が大好きなんだよね」
と続けた。
この段階では、私は鼠とアカマタに関係性があると思っていなかったために、知人には特に天井裏の足音については報告していなかった。
にも関わらずだ。
長らく謎であった存在の名前を知っただけで満足してしまい、結局何の妖怪なのかは聞きそびれてしまった事だけが悔やまれる。
蛇と同じ名前だが、関係あるのだろうか。
確かに手の先が丸く巻かれた様は蛇の尾の様でもあった。
アカマタがいるからネズミが来たのか、ネズミがいるからアカマタが来たのか。
なかなか面白かったです