鼠を好むモノ
投稿者:桧山 (1)
私の実家はかれこれ築60年以上は経っている。
比較的新しく建てた鉄筋の住居と、その木造の古い家が連結している、所謂二世帯住宅である。
木造の家の1階には高齢の祖父母が住んでいたが、私たち家族は極力そちらの家には長居しない様にしていた。
2階がどうも嫌な感じなのだ。
長年住んでいるにも関わらず、私達のテリトリーでは無い雰囲気と言えばよいのだろうか。
昼間でも薄暗く、そこに足を踏み入れただけで寒気が走るので一刻も早く去りたい気持ちになるのである。
父などはそこの和室で寝ていたら何者かに目隠しをされたそうであった。
そんなある時、その2階の空き部屋が私の部屋になってしまった。
この頃になると、木造の家の2階は全部屋物置になって久しかった。
そして思春期の弟に部屋を持たせようという事になり、居間に近い私の部屋が弟のものになり、押し出される形で2階の部屋を当てがわれたのだった。
理不尽である。
そこは例の和室の向かいの昔伯父の部屋だった場所で、見るからに「昭和の洋室」であった。窓枠や床、壁は暗めの色の木材で固められ、びっしり並んだ分厚い洋書の図鑑が棚の上の方で埃を被っていた。
もちろん最初は全く乗り気ではなかった。
実際に寝起きしてみると、やはり
・男性の声に話しかけられる
・爆音で「ピンポーン」と知らないチャイムが響く
・寝ているとベッドの淵に誰かが座る
などの1回きりの細やかな怪異があった。
しかし不思議と怖さは続かなかった。
負けじと自分のお気に入りの家具を置き、好きな音楽を流して楽しんでいると、徐々に自分の色がその場に定着し、自分たちの知り得ない暗さを感じる事は少なくなって行ったのであった。
むしろ家族と離れて静かな空間を独り占めできて快適ですらあった。
しかし、ある時から天井裏で音が聞こえ始めた。
小さい動物が走り抜ける様なトトト…と言った音と、重めの丸い何かがゴロゴロ転がる2種類の音である。
それらは別々に鳴ったり同時に鳴ったりとまちまちであったが、鳴り出すタイミングはいつも同時期だった。
古い家かつ隣が寿司屋なのもあり、前者はおそらく鼠だろうと思った。
後者はよく分からなかった。よく考えると鼠には動かせない様な重さの鳴り方であったが、その時はおおかた鼠が何かを転がしているのだろう位に考えていた。
その音は日に日に活発になり、しまいには殆ど毎晩聞こえる様になっていた。
さすがに鼠が天井から落ちてきたり、もしかしたら鼠よりも大きな生き物だったらどうしようと不安になってきたが、当時は学業に追われてそれ以上気にする暇がなかった。
なかなか面白かったです