消えた小沢くん
投稿者:とくのしん (65)
小学生の頃、近所に小沢くんというクラスメイトがいた。彼とは幼稚園からの仲で、親友と呼べる存在であり、思い返してみれば喧嘩もしたことがない程に仲が良かった。そんな小沢くんが消えたのは今から25年程前のこと・・・もう25年も経つのか・・・。
当時小学校4年生だった僕らが、不可解かつ理不尽に引き裂かれたのは。
その日、僕らはいつもと同じように下校していた。夏休み前ということもあり、何をしようとか宿題を一緒にやろうとか何処へいこうとか、そんな他愛のない話をしていたのを覚えている。
ふと、背後に人の気配を感じた。振り返ると数十メートル後ろにやつれた男の姿が見えた。小学校裏手の山は人はおろか、車もほとんど通らない道である。痴漢や変質者が出るとの話から、学校からは通学路として使用を禁止されていた道なのだが、ここを抜けると家まで近いことから小沢くんとよく通っていた。
「後ろに変な人がいる」
気づくと背後に20代前半から半ばくらいだろうか、甚く貧相な風貌は浮浪者一歩手前といった男の姿があった。男はこちらに視線を向けたまま、足早に距離を詰めてくる。
「う・・・うわあああああ」
小沢くんは男を見るや急に叫びだし、そして走り出した。僕は呆気にとられながらも男が迫ってきているものだと思い身構えた。しかし、男は淡々と歩いてくるだけではないか。
「小沢くん待ってよ!」
なぜ小沢くんが急に怯えたのかはわからない。小沢くんの怯えた様子に僕も怖くなり後を追いかけた。
(もしかして、小沢くんはあの男と何かあったのかもしれない)
小沢くんの変貌ぶりに僕はそんなことを思っていた。なにせこの道は学校から通行を禁止されているような道だ。あの男が変質者の類であっても不思議ではない。
そんなことを思いながら緩い坂道を駆け上がっていると、背後から迫る足音が聞こえた。男が走り出したのだ。僕はその足音に恐怖した。振り返ると男は無表情でこちらに向かってくる。思わず悲鳴をあげた。
男は僕のすぐ後ろまで迫ってきている、気配でわかった。
(ダメだ!捕まる!)
そう思ったものの、男は僕の横を追い越していくと真っすぐ小沢くんに向かって行く。追い越された僕は走るのを止めてその場で立ち止まった。すぐ先では小沢くんが男に捕まっていた。
「やめて!やめて!助けて!」
泣き叫ぶ小沢くんのランドセルを男は掴んでいる。僕はその光景をただ眺めながら、はっと助けを求めなければと大声を出した。
「だれか!だれか助けてください!」
助けを求め叫ぶが、このあたりに民家はおろか人の気配すらない。小沢くんは地べたに這いつくばり必死に抵抗していた。
「いやだいやだ行きたくない!行きたくないよ!」
男は小沢くんを無理やり引きずり起こすと、腕を掴みそのまま茂みに消えていった。泣き叫ぶ小沢くんの声が徐々に小さくなっていく。僕は何もできずそこに佇んでいたが、気が付けば小沢くんの声は聞こえなくなっていた。
(小沢くんを助けなきゃ!)
呆然としばらく立ち尽くしていたが、思い立った僕は近くに落ちていた木の枝を拾うと、小沢くんが連れて行かれた茂みに飛びこんだ。踏みしめられて倒れた草が道を成していたことから、後を追うのは容易だった。このときばかりは恐怖よりも助けなきゃいけないという正義感が先走って、一心不乱に後を追った。
30mも進むと少し開けた場所に出た。そこに小沢くんのランドセルが落ちていた。周囲を探すが小沢くんの姿はない。あの男の姿もなかった。僕は必死に探したが、結局彼らを見つけることはできなかった。
ひとまずランドセルを抱え、小沢くんの家に向かった。インターホンを鳴らすと小沢くんのお母さんが出てくる。
最高にいい話でした!なんかせつなくてジーンと来ました。
鳥肌が止まりません!
今月も投票ありがとうございました。
6月も2作品投稿したのでよろしくどうぞ。
とくのしん
結局無視したんかい………
有り得ない話だけど面白かったです