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HPMPラブクラフトさんによる特別投稿にまつわる怖い話の投稿です

才、極まる
長編 2024/03/06 17:47 3,333view
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 今現在、私が導き出した仮定の結論は、全て山村時代による計算だったのではないか、というものである。「山村が」の可能性もあるが、彼の言葉通りに解釈すると、「山村の文才が」である。編集長の受け売りだが、山村は選考委員に芥川賞を取らせるように作品を仕上げた。これは山村の作品によって他者の行動が決定させられたということでもある。私が言う山村による計算とは、出版関係の人間に(しかもごく少数に)本能的に山村を受け付けられない人間を生み出し、さらにその男に山村のインタビュアーをまかせ、山村が例の話を打ち明けられるようセッティングしたのである。何のためか。これまた推測に推測を重ねることになるが、主人である山村の抱える不安を拭いたかったのではないだろうか。
 というのが、私が今現在、導き出した山村の謎の答えである。何故、こんな超自然的な仮説を立てたのか。それは山村が自身で己が文才で人を操れてしまうことを証明してしまったからに他ならない。
 それはインタビューから五年と二ヶ月が経過したころであった。なおもその人気を揺るがさず文壇に君臨し続ける山村が、唐突に自身の半生をそのまま小説に仕上げたような作品を発表したのである。タイトルは『壊れゆく才』。発表からいたるところで大いに取り上げられ、宣伝されたその作品は他の山村作品と比べても頭一つとびぬけた売り上げを記録した。私はというと、山村のインタビュアーに返り咲くことはなく、単なる一読者として山村の活躍を見届ける形になった。発売当日に新作を購入した私は、その日中に読み上げてある得体のしれない不安に駆られた。作中では最後に山村を模したであろう主人公の小説家が、絶頂の中で非業の死を遂げたのである。睡眠薬を過剰摂取し深い眠りにつく主人公。作中で彼は自身の中にある深い絶望から解放されたような心地で一生を終える。
 山村の完璧な文章で儚くも壮大に描かれたその死は、私を含め、様々な読者の心を打ち付けただろう。そして発売からおよそ四週間が経過した午後二時四十三分、山村は路上で暴徒に刺され死亡した。暴徒は熱狂的な彼の信者であった。
 山村の急逝を受けて、私はようやくあの時感じた不安の正体が分かった気がした。その正体はまるで山村からのメッセージのように作品からあふれ出ていた。
 「どうです。本条さん。私の文才がなせる業ですよ。」

 そんな山村の声が聞こえた気がした。

 この一連の騒動は山村が仕組んだことなのだろうと私は思う。山村の文才がなした業には違いなくとも、今回の計画の根幹は彼の意志にある。つまり今回おそらく初めて、山村は自分の意志で自分の才を使用したのである。これは文才から逃れるための大掛かりな自殺なのだろうか、それとも彼と彼の文才の激しい闘いの結末なのだろうか。
 山村の死から十五年が経過し、彼の存在が時代の陰に消えた今日に、私が書き上げ人知れず公表したこの文章は、おそらく誰の目にも止まることなく、海のような情報の中で藻屑になるだろう。それでも私に残す以外の道はない。山村時代の才が極まったあの日の出来事を。

オワリ。

作者「肉丸下痢太」

肉丸下痢太です。下痢という言葉に抵抗感がある方はマルゲリータ肉と呼んでいただいても差支えございません。不定期で短編小説を書きます。けっして官能的なモノではないですが、肉の小説には性的描写や不快な表現が多数含まれていることがあります。過度なモノにはR指定を行いますが、基本的にはR15指定ほどの感覚で読んでいただけると幸いです。ホラーというよりはアングラやサブカルっぽい雰囲気を出せたらと思っていますが、こんな発言をしている時点でサブカル作家失格かもしれません。何もかも半端な素人の小説ですが、ちょっと批評するようなつもりでも、軽く味わってみるつもりでも、何でも目を通していただけたらありがたいです。

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コメント(2)
  • YouTubeで聴きました。面白かったです。

    2024/03/10/21:03
  • どういうことだ?

    2024/03/26/23:16

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