【short_48】ツウな幽霊
投稿者:kana (210)
カランカラーン♩古臭いドアチャイムの音を鳴らして、
オレは行きつけのバーのドアを開いた。
「すいませーん、まだ営業時間じゃないんで・・・あれ、ジンさん!?」
バーのマスターが開店準備をしている最中だ。どうせあと30分もすれば開店だ。
「いやちょっと時間中途半端でさ、少しいさせてよ」
「しょうがないなぁ~ジンさんは・・・」
そう言いながらマスターが何か一品作っていた。
「おっ?何作ってんの?」
「へへ、新鮮な生牡蠣と・・・ラフロイグを一杯つけて・・・」
そう言ってマスターは小皿に殻を割ったばかりの新鮮な生牡蠣と、
強烈なピートが薫るアイラモルトのスコッチを合わせて、誰もいない席に置いた。
「おっ、いいねぇ~オレも一杯飲みたくなってきちゃったなぁ。それ頂いちゃダメ?」
「ダメっすよ、ジンさん。・・・これはアミちゃんの分なんです」
「えぇっ? アミちゃんの・・・そういやこの店で初めて牡蠣とラフロイグが最高に合うって知って、それから毎日のように飲みに来てたよなぁ・・・あんな事故がなきゃ、今でも楽しく飲んでたのになぁ・・・かわいい子だったのになぁ・・・」
「来てるんですよ」
「え?」
「時々来てるんですよ、アミちゃん・・・今でも」
「ゆ、幽霊になってってこと・・・?」
「アミちゃん、どうやらウチの店の福の神になったみたいでね。アミちゃんが来た日はお客の入りも良くてね、なぜか。だからこうしてアミちゃんの好物を出して置くんです」
「へぇ~・・・そうなんだ。・・・今夜は久しぶりにアミちゃんに会えるかねぇ??」
「きっと会えますよ、ジンさん」
・・・今夜は、いい夜になりそうだ。
スコッチの産地のひとつ、アイラ島ではウイスキーの原料となる大麦をいぶすのに、島内で手に入る安い泥炭を使っていた。この泥炭が海藻などからできており、これでいぶすと強烈な磯の香りのようなスモーキーな香りが付き、それがウイスキーに独特な芳香を付けるという。まるで消毒薬のような香りとも言い、禁酒法時代のアメリカには、これらのスコッチが薬品だと偽って輸入されたとか。一度ハマルと抜け出せなくなる香りだそうです。同様のスコッチにはラフロイグの他に、ボウモア、ビッグピート、アードベックなんてのもあります。牡蠣と一緒にぜひどうぞ。