【short_14】幽霊旅館

オカルトが好きで、バイクを駆って心霊スポットへもよく行くボクは、
幽霊が出ると言うとある旅館の噂を聞いて、泊ってみることにした。
もちろんそんな目的で泊まりに来たなど、フロントの人たちには口が裂けても言えない。

「よく、戻られましたね」・・・フロントの人に変な挨拶をされた。
ここには初めて来たと言うのに『よく戻られました』って・・・なんだかメイド喫茶の「おかえりなさい、ご主人様」ってのを思い出し、(ふ～ん、そういう挨拶取り入れてんだ、ここ・・・)と思った。

部屋に通されたが、古い作りの和室・・・まぁ美しくもないが整理されており、いたって普通。温泉にも入ってみた。それほど大きくもないが源泉かけ流しの岩風呂で満足した。

料理は部屋で食べることができ、豪勢でもなければ土地の名物が出るわけでもなく、いたって普通の、むしろ家庭料理かと思うようなメニューで、メインはエビフライであった。
でも、おいしかった。何も問題が無い。

静かに時が過ぎる。

もう一度温泉に入り、ビールを一杯飲んで、ボクは普通に就寝した。

翌朝、目を覚ますとそこは病院の一室だった。
ボクは体からいろいろな管が出ており、看護師や先生があわただしく走り回っていた。

あとから聞くと、ボクはバイクで心霊スポットへ行った帰り、例の旅館へ行こうとしたところで事故に遭い、崖から転落して意識不明となっていたらしい。
つまり、旅館などには行ってなかったのである。なんと、あれは全部夢だったのか?

「先生・・・ボクどのくらいの時間、意識飛んでたんですか?」気になって聞いてみた。

「そうですね・・・だいたい１０年くらいになりますかねぇ・・・よく、戻られましたね」