終着点のあるバス
投稿者:ねこじろう (147)
─死のう……
そのように決心してAは家を出た。
妻にはちょっと行ってくると言い、一週間前それなりの恰好をして出かけた。
会社には何の連絡も入れていないから、今頃ちょっとした騒ぎになっているだろう。
─いや、俺なんかが突然いなくなったとしても、大した騒ぎにもなってないかもな
Aは苦笑した。
勤続二十五年。
大した出世もしなかった。
その間に今の妻と見合いで結婚。
五年めには愛情も薄れ会話がなくなった。
子供も望んだのだが恵まれなかった。
その辺りで妻が近所の男と浮気してることに気付く。
そして心に埋められない大きな溝が出来た。
その溝を埋めるために会社帰りパチンコ店に立ち寄るのが習慣になり、それが数年続き、いつの間にか普通の会社員ではとても返せないくらいの借金を作ってしまった。
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Aは歩いていた。
着替えとかが入ったリュックを背負い、山あいの国道をただひたすら歩いていた。
目的は一つ。
死ぬ場所を探すためだ。
山を越えたら海がある。
なんとなくその辺りで死のうと思った。
なぜなら海は「母」の象徴であり、そこで死ぬ、ということは、つまり胎内に戻るということになるからと、彼は勝手な解釈をしていたからだ
しとしとと、冷たい雨が空から落ちてきた。
「ああ、これはまずいなぁ」
Aはどす黒い空を見上げ呟くと、パーカーのフードを目深にかぶり直した。
ダウンの襟を立てて両手の平に息を吹きかける。
白い息が顔を包んだ。
日はとっくに沈んでいる。
※※※※※※※※※※
ふと見ると道沿いにバス停があった。
怖いというよりも悲しいお話しでした(>_<)。
降車ボタン押さなかったんですね。奇しくも似たような境遇の男たちが出会い重ね合う思い。ラストの一文が光っています。最期、ひとりじゃなかったことが唯一の救いであり慰めでしょうか。
皆さん、コメントありがとうございます
─ねこじろう
さみしいね
コメントありがとうございます─ねこじろう