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不思議体験

大将さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

姫さん
長編 2023/10/03 03:27 20,836view
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しじみのような小さな目の中にあるまた小さな目クロメが私を捉えると途端に身体がまるで誰かに押さえつけられているように圧迫され動けない感覚を覚えました。
女性はじっ…と私を見つめ、確認するかのようにそろそろと近付いてきます。
近付くにつれ、女性がにちゃにちゃと気色の悪い笑みを浮かべていきました。
本能が「捕まったらやばい、」と訴えかけてきます。
その瞬間、動物か何かが草むらを駆けたザザザという音を立てました。
私の身体はまるで重い荷物を置いた様に一気に軽くなり、その身軽さに任せ「おい、逃げんぞ!」と大声を上げ、立ち上がることもせず尻で滑るように下に降りました。
友人らは当然ですが困惑していましたが、普段度胸だけは鬼のようにある私があまりにも焦って降りている様子に反射的に着いてきました。
道など殆ど覚えていないにも等しい初めての山道をとにかく下り、下り、転げ、下りと降りていきます。

入った時に比べ、閉塞感は増すばかりで脳内は「やばいやばいやばい」、そればかりでした。
駆け下りている途中、友人らが着いてきているか心配になった私はふと後ろを振り返りました。

1、2、3よし、全員追いついてる。
そう安堵しようとしたのもつかの間、最後尾の同級生の後ろにもう1人着いてきているのが分かりました。

先程見かけた女性でした。
田舎とはいえ、あまり見かけなくなった着物をたくし上げ、素足をさらけ出しながら共に駆け下りていくその髪は背に着くことも無く蛇のようにたなびいて見えます。
「ふざけんなって!マジで!マジで!」
そんな恐怖と怒りを混ぜたような怒号を飛ばしながら正面を向き直し、ちぎれんばかりに足を動かしたと思います。
木々が少しバラけ始め、ようやく道らしきものが見えた当たり、妙な風が耳を掠めました。
「A、Aぇ…」
甘ったるく甘えるような女を強めた声が私に向かい『私の父』の名を呼びました。

驚きのあまり私は思わずビタっと立ち止まってしまい、そんな私にぶつかる友人ら。

その衝撃でそのまま転げ落ちるように道に出、山道から脱出する事が出来ました。
急に止まるな、とか何が居たんだ、とかそんな友人らの声を遠くに、私は転けて血の出る膝と手をそのままに先程まで居た山道に目を向けました。
女性は1歩もそこから出ることも無く、少し目を細めこちらをまだ見ています。

目線は合ったまま動けず、女性のゆっくり動く真っ黒な口元が何かを発そうとしたその時、

「なんしちょっか!ガキ共!」
怒号に身体の硬直がとけ、思わず声の方を思わず振り返れば、近所のおじいさんがこちらへ向かってきています。
どう降りたのか、着いたそこは近所のおじいさんの果実園の裏手でした。

記憶が曖昧なのでそのままの言葉ではないのですが、
「危ないから入るなって言われてるだろうが」とか、「なんも居らんかったやろな?」とかそんな事を言われたと思います。
恐縮している友人らが「だって、」や「なんも居らんかった」とビクビクと答えているのを尻目に私は再度山道に目をやりました。

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コメント(5)
  • マジで
    姫さん怖すぎやろ

    2023/10/07/12:07
  • 後の吉田沙保里である

    2023/10/07/13:43
  • 久しぶりに怖い話しでした。
    妖怪なのかもしれないですね。

    2023/10/09/14:58
  • チェンソーマン

    2023/10/16/06:21
  • 怖いというより何か物悲しいお話だと思いました。

    2023/10/31/22:53

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