空飛ぶ「コータ君」

「階段?」僕が聞き返すと兄はその時の事を小声で話しはじめました。

話の中身はこうです。

どうやら「コータ君」が転落したその時、兄は「コータ君」と同じ８階にいたのだそうです。

マンションの両端には昼でも暗い階段があり、中央にはエレベーターがあります。

兄は一方の階段側から、コータ君が逆側の階段を駆け上がり、そのまま柵を乗り越え転落した様子を見ていたのです。

兄の話をまとめると、「コータ君」は、まるで何かから逃げるように「あぁぁぁっ」と叫びながら空中に飛び出していったそうです。

兄ははじめ、鬼の子に追いかけられた「コータ君」が、逃げるために焦って飛び降りたのだと思っていました。

しかし、事件後に分かったのですが、鬼の子は２階で他の子を追っており、転落した「コータ君」に最初に駆け寄ったのも鬼の子だったようです。

「結局コータが何から逃げてたのかが分からない」と兄は言っていました。

もちろん僕にも分かりません。

ただ、僕は大人になった今でも実家の階段は使えません。